プリとAXのお話。


その日も朝から見たのは彼の貼り付けたような笑顔だった。

 朝起きてまずする事は彼の居場所確認だったりする。
 別にいつもずっと同じPTに入っている訳じゃないけれど、なんとなく居場所は分かる。
 いつも思うのは一緒に狩りに出かけられたらいいなって事。
 昔は当然のように二人で出かけて、強敵モンスターを必死で倒したりして楽しかったから。
 それが今では私達のレベル差は開いてしまって、公平を組んで狩りには行けない。
 それでも一緒に狩りに行きたいと思ってしまうのだ。
 何故なら・・・。
「え、いいんですかぁ?」
「いいよー。2次職になったらもっと楽しい事いっぱいだし!早くなりたいでしょっ」
「でも、お礼とか・・・」
「そんなの・・・」
 見つけたのはいつものやりとり。
 剣士の女の子と並んで座って笑顔で会話している姿。
 私の前では見せない、なんだか貼り付けたような気持ちの悪い笑顔で
 デレデレと鼻の下を伸ばし、大きな身振り手振りで一生懸命な姿が逆にかっこ悪い。
「・・・ここにキスひとつしてくれたら十分さ」
「えー、やだぁ」
 やだぁ・・・とか言いながら笑っている辺り、女の子もまんざらではない様子。
 当然だろうな。自分1人では戦えない強敵モンスターのターゲットに自ら進んでなる、
 いわゆる「壁」になってくれる存在なんてそうそう居やしない。
 それも相手はプリーストだ。回復剤も持って行かなくていいし、
 ステータスの上がる魔法を自分にかけてくれるんだから、
 なかなかレベルの上がらなくなって来た転職間近の1次職にとっては好条件過ぎる。
 それに対する報酬がお金でも、ターゲットのモンスターが落とす収集品でもなく、
 頬にひとつキスするだけで言いと言うのだから、女の子にとっては悩む事なんてないんだろう。
「先払いでも後払いでもかまわないよ?」
「じゃあ後からにしようかなー」
 どうやら交渉は成功したらしい。
 女の子は装備を整えて来ると彼に告げると、街への門をくぐり抜けて行った。
 そこで、ひとつ。ため息が出る。
 彼はどうしてこうなってしまったのだろう・・・と。
 昔のまま一緒に狩りをし続けていたら、本当なら今頃は私と一緒に転生して
 彼もハイプリーストになって・・・、また一緒に狩りに出かけられていたはずなのにな・・・。
 私が何かいけなかったのだろうか・・・なんて馬鹿な事を考える。
「華楠ー!」
 名前を呼ばれふと顔を上げた。
 先程の場所で、彼がこちらに向かって手を振っていた。
 見つかってしまった・・・。
 クローキングでもしていればよかったかと思ったけれど、そこまでするとただのストーカーだ。
「・・・全く。また壁なんかやってんの?」
 本当は「おはよう」と言うつもりだった。だけど、出て来た言葉は嫌味。
 多分、私はさっきの女の子に嫉妬してしまっている。
「なんかとはなんだよ、失礼だな。聖職者としての立派な御奉仕よ?」
「お礼とか言ってキスねだる男が、聖職者名乗るな」
「えー、そんな事言われても俺聖職者だしー」
 座ったままの彼。立ったままの私。
 見上げて来る彼の目。上から見下ろす私の目
 正直、目と目を合わせて会話するのは苦手だったりする。
 真意を見透かされるんじゃないかっていつもハラハラする。
 こんなナンパな事をしていても、彼の・・・蓮の目は澄んでいるからだ。
 やっぱり聖職者なんだなって思い直してしまう所。
「あんた、職業間違えたんじゃないの?」
「そんな事言って、華楠だって俺の支援で育って来たんじゃん」
「それは・・・」
「蓮さん、お待たせしましたっ!」
 感謝してる・・・と続けようとした所で、さっきの女の子が戻ってきた。
 うっかり口を滑らす所だったので、私にとってはナイスタイミング。
 蓮がどうとったか分からないけど、正直ほっとした。
「こんにちはー」
「え、あ・・・。こんにちは」
 可愛い子だ。いつもだけど、蓮が壁の相手をする子はみんな可愛い子ばかりだ。
「凄い、アサシンクロスさんですね!」
 キラキラした目で私を見ている女の子。
 ここ、プロンテラの南広場では珍しくもなんともない職業なはずだけど・・・。
 面と向かってこんな風に凄いとか言われるなんて、少し嬉しかった。
 だけど、1人でずっとレベル上げをしてやっと転職したんだよ、なんて言ったら
 これから壁をして貰う彼女はどう思うのだろう。
「蓮さんの彼女さんですか?」
「うん、そ「違います」・・・」
 自分でもちょっと驚いた。蓮の言葉に被り即答していた。
 でもこんな所で簡単に肯定する訳にはいかなかったんだ。
 ぽかんとした顔で蓮が私を見てる。
 剣士の彼女は小首を傾げながら私と蓮を交互に見ている。
 せっかく一蹴したのに、このままだとまた蒸し返されそう。
「そんなどうでもいい事はおいといて、行って来なさいよ。壁さん」
「あぁ、そうだった。じゃあ行こうか、初音ちゃん」
 また、あの笑顔。ゆるゆるになった気持ちの悪い笑顔。
 ・・・私が見たいのはこの笑顔じゃない。
 立ち上がる彼に見られないように、私はふいと顔を背けた。

 ワープポータル!!

 蓮が唱えた呪文で足元に魔方陣が広がり、中心に光の柱が立ち上る。
 お辞儀をして光の柱に入って行った女の子。
 その後に蓮も続く。
「じゃな、華楠。暇が出来たらお前の支援もしてやるよ!」
「は?」
 蓮は偉そうな事を言い残し、一瞬で二人は私の目の前から消えた。
 一体何処に何を狩りに行ったのか・・・わからない。
「何が、暇が出来たらよ・・・。」
 無意識に呟いて、1人ではっとして。
 別に周りの誰かに何か言われたとか、変な目で見られたとかなかったけど、
 ここに居るのがとても居心地悪くなってしまって。
 私は早歩きで街への門をくぐるのだった。
 
  #2→
 






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