みんなのお話。


 夕食を終えてからギルドメンバーに呼ばれて瑠玖と海月はたまり場に出掛けていた。
 みんなチョコを作って貰って居たようで、それぞれ沢山の数を貰った。
 勿論、と言うのは何だかおかしい気もするが、メンバーの殆どがブラックバレンタインに所属していて、
 海月は自分のギルドながら、流石マスターが瑠玖なだけあるなぁと思っていた。
 蓮と華楠、そして絢音の姿は無かったが、蓮と華楠は二人で過ごして居るんだろうし
 絢音も多分誰かと一緒に居るんだろうと思う。
 別にたまり場には絶対に来なければいけないと言う訳じゃない。
 暇な人が集まって会話を楽しんだり、狩りに行く予定を立てたり、相談をしたり。
 そう言うような場所になればいいと思う。
「マスターもカプラW泣かしました?」
「おお、あれにはびっくりしたわ。まさか泣かれるとは思わんかった」
「みんなもやったの・・・」
 海月が言うとみんな元気に「やりましたー!」と答える。
 本当にバレンタイン反対派なのか、ただの悪戯好きなのか。
 まぁこう言ったイベントは楽しんだ者勝ちだとは思うので、それはそれでいいのだと思う。多分。
 日も完全に落ちてしまって、辺りは街灯の明るさのみになってしまったので
 そろそろ解散しようと言う話になった。
 話し足りない奴らは居酒屋露店にでも行くのだろう。
 瑠玖も誘われたが、今日はごめんと断った。
 何せバレンタイン。恋人同士にとっては外せないイベントである。
 家に帰って来るなり、後ろから抱き付かれたので笑いながら。
「行って来てもよかったのに」
 海月は言った。
 本当はそんな事思ってない。断ってくれて嬉しいと思っている。
 まだ作って貰ったチョコレートを渡していないし、瑠玖からも貰ってない。
 二人のバレンタインはまだ終わっていないのだ。
「そんなん思てへんくせして」
 笑いながら瑠玖は海月の羽耳を弄る。
 耳に直接付いているので、これを弄られるとくすぐったい。
 海月は首をすくめた。
 後ろから押されるようにしてベッドまで歩いて行って、くるりと回転。
 そのままの状態で瑠玖がベッドに腰掛けたので、海月は瑠玖の膝の上に座るような格好になる。
「一体何個貰った?」
「わかんない。殆ど全員から貰ったんじゃないかな」
 首に絡まる瑠玖の腕を外して膝から降りると、海月もベッドに座り
 道具袋から貰ったチョコレートの箱を取り出し始める。
 ひとつふたつみっつよっつ・・・。
 順番に並べて行って数えて行くと、全部で17個。
 自分のギルドはこんなに人数が居たかと思う瞬間だった。
 瑠玖も同じようにして並べてみたが、海月と同じ空間に居たのにも関わらず海月よりも数がひとつ少ない。
「なんでやねん。なんで俺のが一個少ないねん」
「食べたんじゃないの?」
「いや、食うてへんし」
 腑に落ちない様子の瑠玖だったが、あの場に居たのは圧倒的に男の方が多かったので
 殆どが男から貰ったチョコレート。
 最終的には気にしない事になった。
 それに。
「殆どみんなブラックバレンタインだったね」
「せやなぁ。こん中でどんだけ食えるのあんねやろか」
 二人して腕を組んで並べた箱を凝視する。
 自分達も全種類のチョコレートを作って貰った訳ではないので、
 どのチョコレートがどんなラッピングをされているのかが分からないのだ。
 とりあえず、自分が作って貰ったまともなチョコレートを思い出して、そのラッピングをされた箱を避けてみる。
 瑠玖、海月共にその数は2つ。
 余りにも少ない。
「あれや、もうこれ開けた方が早い」
「うん、俺もそう思う」
 顔を見合わせて頷き合って、端から順番に箱を開けて行った。
 チョコレートの塊。微妙な形のストロベリーチョコ。微妙な味のチョコタルト。
 続く続く、まずいお菓子のオンパレード。
 流石ブラックバレンタインに所属したメンバー達だと思わざるを得なかった。
 例え渡す相手がギルドマスター、サブマスターであっても容赦無かった。
 その中で光輝く手作りチョコのなんと美しい事か。
 名前を見ると女の子のメンバーでやっぱりな、と思う。
 貰った中で食べたくない感じのチョコレートは2/3。食べたいと思うのは1/3だった。
「・・・なぁ海月。あれやんな。見た目とか味やなくて気持ちやんな」
「そ、そうだね」
 一生懸命楽しんで作って貰って、自分達に渡してくれた事に感謝しつつ。
 食べ物は悪くないので、なんとか時間をかけてでも食べようと決意する二人だった。
 間違っても捨てようなんて考えは思い浮かんだりはしない。
 とりあえずは全て箱を閉じる。
 冷蔵庫に保存するのがいいのか、常温で保存するのがいいのか考えて、
 まぁ箱に入っているから常温でもいいかと思って。それぞれサイドボードの引き出しの中へと片付けた。
 上段が瑠玖、中段が海月。
 中身は大して変わらないのでどちらでも良かったが、一応普段から使っている引き出しへと収納したのだった。
「さてと・・・」
 呟いて、瑠玖は海月に向き直る。
 にまにまと何処か嬉しそうな視線を向けられて、海月も瑠玖へと身体を向けた。
「メインディッシュの登場です」
 言って瑠玖は綺麗にラッピングされた箱をひとつ取り出した。
 まずい方のチョコレートばかり作って居たと思って居たけれど、ちゃんと用意してくれていた事が嬉しくて。
 それを見て海月は嬉しそうに顔を綻ばせた。
 勿論海月も瑠玖に渡すのにちゃんとしたチョコレートを用意していたので、それを取り出す。
「ハッピーバレンタイン?」
「ハッピーバレンタイン」
 何だか口に出すのがくすぐったくて半分笑い声。
 そうして、お互いに箱を交換し合った。
 受け取ってから、早速開けてみる。
 瑠玖から貰ったのは丸い手の平サイズのチョコタルト。
 海月は余り甘いモノが得意ではないので、少し甘さ控えめなこのタルトを選んでくれたのだと分かる。
 海月から貰ったのはハートの形をしたチョコレートに小さな羽根がついている、手作りチョコ。
 ハートの形が海月の気持ちを表しているような気がして、瑠玖は嬉しくて身悶えそうになった。
「ありがとう、瑠玖」
「おう。俺もありがとうな」
 お礼を言ってから一口齧ってみる。
 タルトは見た目より少し柔らかで、ほろ苦い甘さ。
 海月にとっては丁度いい甘さだった。
 瑠玖は手作りチョコの羽根の部分をパキリと折って、口の中へ入れる。
 ミルクチョコレートの程よい甘さが口に広がる。
「甘いね」
「そうやな」
 言いながら、瑠玖は海月の手にするタルトを奪って箱に戻し、自分の持っていた手作りチョコも箱に戻すと
 それをサイドボードの上に置いて、とんと海月の肩を押しベッドへと押し倒した。
「瑠玖?」
「チョコも甘くて美味いけども。それより美味いもんが食いたくなった」
 言いながら、海月の首筋に口唇を落とす。ぽろり、と瑠玖の頭からたぬきさんが落ちる。
 ぴくん、と海月の身体が小さく跳ねた。
 瑠玖の言葉に笑いながら、海月は首元にある瑠玖の頭、その髪の毛に指を絡め弄ぶ。
 恋人同士の二人の夜には、流石のチョコレートの甘さもどうやら敵わないらしい。



 次の日。
 海月はアサシンギルドでのパートナーであるクロウを、ゲフェンの展望台へと呼び出して居た。
 以前、華楠をここへ呼び出してからは、パートナーと外で会う時はなんとなくここと決めていた。
 呼び出すのは初めてで、クロウの事だから来てくれないかもしれないと思ったけれど
 以外にもあっさりと承諾してくれて、彼は割りと早く姿を現した。
「よう」
「うん、久し振り」
「そうか?この間任務で会ったばっかだろ」
 海月の隣に腰を下ろしながら、いつもの軽口を叩くクロウ。
 確かに数週間前に任務で顔を合わせた事は合わせたが、海月にとって数週間前はもう久し振りの域。
 海月としては言ってる事に間違いは無かった。
「んで?何だよ、用事って。俺様も忙しいんだ。早く済ませろよな」
「あぁ、うん。これなんだけど」
 海月はクロウへラッピングが施された小さな箱を差し出した。
 昨日、チョコレート工場のお菓子作り教室で作って貰ったチョコレートだ。
 クロウはそれを見て眉を寄せる。
「な、なんだよ、お前。俺様の事・・・?」
「違うよ、ばーか。お前は俺のパートナーだろ?いつもお世話になってるから。感謝の印」
 半ば押し付けるようにクロウに手渡す。
 自分の手の平に乗せられた箱を訝しげに見詰めるクロウだったが、貰えるモノは貰っておこう精神。
「サンキュ」
 お礼を言って、さっそく箱を開けてみる。
 すると。
 中に入っていたのは、どう見てもまずい方のチョコレート。
 微妙な味のチョコタルトだった。
「・・・お前、これ」
「あぁ、見た目と味はちょっと悪いけど。身体にはとってもいいんだって」
「そう言う事じゃねぇ!どう言うつもりでこんなもん俺様に!!」
 掴み掛かって来ようとするクロウに向かい、海月は自分の胸辺りを指さした。
 そこには反対派の証。
 それを見詰めてクロウはしばし身を固める。
「ほら、俺所属がブラックバレンタインだからさ」
「・・・てめぇ」
 クロウの身体はわなわなと震え出し、握られた拳には血管が浮き上がる。
 海月はそぉっと立ち上がるとそろそろと後ずさった。
「ほら、大切なパートナーだからさ?健康で居て貰いたいなと思ってさ」
「ほぅ、言いたい事はそれだけか?」
 パキパキと指の間接を慣らしながら近付いて来るクロウ。
 海月が手渡したチョコレートは、無残にも地面に打ち捨てられていた。
 ・・・当然と言えば当然である。
「ホント、お前には感謝してるよ、クロウ!」
 言って、海月は展望台から飛び降りた。
 身体を十分に屈めて着地すると、追い駆けて来られる前に走り出す。
「てめぇ、海月!待ちやがれ!」
「用事は済んだ!またね、クロウ!」
 振り向き様に手をぶんぶん振って、全速力で駆け抜けた。
 多分、クロウも展望台を降りて後を追って来るだろうとは思うけども。
 このまま走れば逃げ切れる。
 ゲフェンの街に突入し、海月はカプラサービスを目指した。

 こうして、素敵な素敵なバレンタインは幕を閉じたのであった。


 バレンタインデー賛成派のハニーハーツ。
 バレンタインデー反対派のブラックバレンタイン。
 あなたなら、一体どちらに所属したいですか?

 ハッピーバレンタインズ・ディ?





 終。







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 イベントモノ第1弾です。いかがだったでしょうか。
 個人的には書いていてとても楽しかったです。いつもはね、メインになる二人を軸にした内容のお話で
 こうやって全体的に繋がるような感じでは書いていないので(話の世界は繋がっていますが)
 莉煌の居る所に瑠玖と海月と蓮が出て来たり、絢音の居る所に瑠玖と海月が出て来たり、
 蓮の居る所にザフィとクロウが出て来たり、華楠の居る所に由伊が出て来たりと
 サブキャラもかなり動かせてちょっとうはうはしています。
 イベントの流れで言えば次はホワイトデーになるでしょうか。
 ROの時間軸での流れで動いて行くつもりで居るので、リアルとはずれた更新になってますが
 リアルの方でROも復帰したので、ホワイトデーのイベントの方もちゃんとやって
 話を繋げたいと思います。パティシエレベル6まで行ったら、
 今度は何を作って貰えるようになるのかそれも気になる所ですしね(`・ω・´)
 ホワイトチョコは♂キャラ限定なのでしょうか?♂垢持っては居るのですが
 全て1次職なもので・・・今居るキャラ全部消して駄文キャラで作り直したい気持ちでいっぱいです。
 ♂キャラのみ(*´Д`)ハァハァ まぁ・・・育てられる気がしませんが。主に金銭的に。
 ちなみにザフィとクロウの関係はまだ秘密です!うふふ。

 では。イベントモノ第1弾。バレンタイン編でした。
 少しでもニヤニヤとして戴けたら幸いです(゚∀゚)

 20100215/まつもとゆきる。


  モドル。







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