廃プリとAXのお話。番外編。
初めてのキスを約束のキスだと言った癖に。
次の日その約束は取り消された。
どうしても外せない用事が出来たとかで来れなくなったと連絡が来たんだ。
来れないなら来れないでそれはいい。
ほぼ毎日のように来られて抱かれて居たのでは身体が持たない。
一晩に1度や2度では済まない絶倫野郎相手だ。
今だって腰が重い。
それに昨日寝る前に考えて居た事が、起きても頭の中にあってどうしようも無かった。
どうせ今日1日一人で居る事になるのなら、それを徹底的に考えようと思ったんだ。
だから。
今日、ここに海月を呼び出してあんな事をして、こんな話をしてみた訳だ。
ザフィの事を知っているかのようにその名前を呼んで、目を丸くしている海月。
俺もその事に驚いて問いかけられた質問に答えられないで居たら、肩を掴まれて詰め寄られた。
「クロウの相方さんってザフィさんなの?ME型プリーストの?紫色の髪で頭にたれ猫乗っけた黒縁メガネの?」
海月の口から飛び出す言葉は全て俺の知ってるザフィの特徴を示していて、
人違いでは無い事が分かる。思わず何度も頷いて居た。
「そ、そうだけど・・・お前知ってんのか?」
「知ってるも何も!昔居たギルドの同じメンバーだったよ」
何と言えばいいのだろう。
世間は狭いとはこう言う事なんだろうか。
俺の肩から手を放した海月は、詰めていた息を吐くように大きく呼吸した。
「まさか・・・ザフィさんがかぁ」
「俺様もまさかあんなトロい奴に押し倒されるなんざ思わなかったけどさ」
「押し倒されたの?!」
「ん?・・・あぁ、そうだけど」
「信じられないー・・・」
海月は頭を左右に振って眉間に皺を寄せた。
その表情は言葉の通り信じられ無いと言う顔をしている。
だけど、事実なんだ。
そんな顔をされたってこっちが困るし、余りいい気もしない。
「信じられねぇって言われてもそうなんだから仕方ねぇだろがよ」
「そ、そうだよね。それで今クロウは悩んでる訳だしね」
「あぁ、そうだよ」
けど、海月がザフィの事を知っているなら話は早いかもしれない。
「知ってんだったらよ、何か分からねぇか?あいつの事」
「うーん・・・そうだなぁ。クロウの言う通りマイペースな人だったからなぁ・・・」
海月は腕を組んで唸ると考え込むように下を向いた。
こいつの言う昔、ってのがどのくらいで同じギルドに居たと言う期間もどのくらいかは分からないが。
俺の知らないザフィの事を知っているのは確かだと思うので、
それが聞き出せれば何かの糸口が見つかるかもしれないと思った。
「うんとねぇ・・・、ザフィさん嘘は付かない人だよ。それに凄い素直。後、情に熱い人だったなぁ」
「まぁ、あいつ見てりゃそうだとは思うぜ、俺様も」
「じゃあ分かるんじゃないの?ザフィさんがクロウの事どう思ってるかって」
「・・・そう来んのかよ」
そう言われて考えると全て自惚れになってしまう。
あいつが俺の家に通って来るのも。
男の癖に男の俺を飽きもしないで抱くのも。
約束だとキスをしたのも。
身体だけの関係だと割り切れる程あいつはドライじゃないだろうし、
全てただの気まぐれならここまで長続きもしないと思う。
だとすれば、考えられるのはひとつしか無いんだ。
けど、それは都合が良すぎやしないだろうか。
「ねぇ、クロウ。そこまでザフィさんの事考えちゃうって事はさ。
自分の気持ちももう分かってるんじゃないの?」
「煩ぇなっ言われ無くても分かってんだよ!」
「あ、赤くなっちゃって。可愛いトコあんじゃん、クロウも」
「煩ぇよっ!」
茶化されて腹が立ったので、海月の事を殴ろうとしたらバックステップで逃げられた。
離れた所でひらひらとこちらに向かって手を振っている。
一度頭でも叩かないと納まりが着かない。
俺はそれを追い掛ける事にした。
展望台を飛び降り、そこらを駆け回り。
橋を渡り、ゲフェンの街に入った所でやっと捕まえた。
片腕で後ろから首を締め付けるように抱え、頭を何度も平手で叩く。
「いたっ痛いって」
ぺちん、ぺちんと小気味良い音がする。
これをお仕置きと呼ばずして何と呼ぼうか。
数十回叩いて気が済んだので、海月を開放してやった。
少し力を入れて首を押さえて居たので、苦しかったのか数回海月は咳き込む。
「海月」
「何?まだ怒ってんの?」
身構えながら数歩後ずさる海月。
別に俺はもう怒って無い。
と言うか、少し腹が立っただけで怒るまでメーターが振り切った訳では無かった。
「・・・ありがとな」
「え?」
「・・・礼言ってんだよっ。聞き返すな!」
「あ、あぁ、そうなの。どう致しまして」
ぽかんとした顔をして海月は俺に頭を下げる。
いや、本当は頭を下げたいのはこっちの方なんだが。
今の流れだとそうするのは相当間抜けなのでしない事にする。
結果的にザフィの事を海月に相談する形になった訳だが。
それで良かったのかもしれない。
一人でぐだぐだ悩んで居た時間が嘘のように頭の中がすっきりとまとまって
もやもやしていた自分の気持ちもはっきりとしたし。
今まで他人に頼ったりするのはカッコ悪い事だと思って居たけど、こう言うのもアリなのかもしれない。
海月はパートナーである訳だし、もう少しは関心も持って心を開いてやるか。
「じゃあな。俺様の用は済んだ」
「うん、わかった」
片手を上げて挨拶をしてその場を去ろうと背を向けて歩き出す。
すると。
「頑張れよー、告白!」
そんな事を後ろから言われた。
ゲフェンはプロンテラ程では無いが、結構沢山の冒険者が集まる街だ。
そんな中で告白を頑張れなどと・・・あいつは・・・!!!
「てめぇ・・・海月ぃ」
振り向いたらもう海月の姿はその場には無く、走り出している所だった。
あの野郎。こうなる事を分かってて言いやがったな?
今度は叩くだけじゃ納まらない。
マウント取って殴りつけてやる!
また、今度はゲフェンの街の中で。海月との追いかけっこが始まった。
翌日の事。
昼を過ぎてもザフィからの連絡が無いので、俺は初めて自分からザフィに耳打ちを飛ばした。
いつもは大抵あいつからの連絡待ちで、自分からなんてした事は無かった。
それだけ受け身だったんだろう、と思い知る。
何度か声をかけたが、返答が無い。
木霊する事は無いので届いては居る筈なんだが。
暫くしてからもう一度呼びかけてみると。
『んー?クロウー?』
眠そうな声が帰って来た。
どうやら眠って居たらしい。
起こして悪かったかな、と思ったが早く済ませてしまいたい用があるので
申し訳無いが付き合って貰う事にする。
『おう、俺様だ。寝てるトコ悪ぃな』
『ううんー。今何時ー?』
『もう昼過ぎもいいとこだ。寝過ぎじゃねぇのか?』
『昨日寝てないんだー。眠たいー・・・』
『待て、寝るなよ?俺様はお前に今用がある』
『んー?そうなの?だったらお家来るー?』
『お前の、家?』
『うんー』
ザフィの家に呼ばれるのは初めてだった。
いつも俺の家にあいつが来るばかりで、あっちに行く事なんて思い付きもしなかった。
相当眠いらしいザフィは動きたく無いようで、自分の家の位置を説明して来る。
俺はそれを何とか頭に叩き込むと早々に家を出た。
ザフィの家はプロンテラにあると言う。
俺の家はモロクなので、まずはカプラサービスで移動だ。
プロンテラに着いたら、大聖堂を目指す。
確か、その近くだと言っていた。
・・・だからか。
だから、あの日のあんな時間にあいつはあそこに居たのか。
大聖堂の裏側で、初めてザフィに押し倒された事を思い出しながら歩いた。
目印は猫の肉球を模した形の壁掛けだったっけ。
それがドアに飾られた家を探す。
猫が好きなんだろうか、ザフィは。
「あった・・・」
ドアに飾られたに肉球の飾り。
まだ家に辿り着いただけで、ザフィの顔を見てすらも居ないのに胸が高鳴った。
やはり俺はあいつの事が好きなんだろう。
このドアを開けて中に入れば、ザフィが居る。
会える。
そう思うのになかなか身体が動いてはくれなかった。
「自動ドアじゃないから待ってても開かないよー?」
「っ!」
声がして、驚いてその方向へ身体ごと向くと、窓からザフィが顔を出して居た。
寝癖のついた頭。勿論だが、たれ猫は乗っておらずメガネもかけて居ない。
眠そうな目をしてこちらを見ていた。
「わ、分かってんだよ、んな事っ!」
言ってドアに向き直り、ドアノブを廻す。
だが、ガチャガチャ言うだけでドアは一向に開かなかった。
鍵がかかっている。
「てめぇ・・・鍵かかってんじゃねぇかよ」
「あ、ごめんー」
口ではそう言っても慌てた素振りも見せず、相変わらずのマイペースで部屋に引っ込んだザフィ。
少し経ってから内側から鍵の開く音がした。
間髪入れずにドアを押し開く。
すると、がつんと鈍い音。
「何だ?」
完全にドアを開け放ってから部屋の中を見ると、バスローブ姿のザフィが床に転がっていた。
額を押さえて唸っている所を見ると、どうやらドアがぶつかったらしい。
思わず駆け寄り、傍らにしゃがみ込んだ。
「悪ぃ、大丈夫か?」
「痛いよー。何をそんなに急いでるのー?」
涙目で俺を見上げるザフィ。
急いで居る、と言われて息を飲んだ。
確かに、焦って居たかもしれない。
早く気持ちを伝えたくて、こいつの気持ちも確かめたくて。
だけど、焦っても何も良い事も無くて。
現にこうしてザフィに被害が出てしまっている。
いつでも何でもパーフェクトな俺なのに。
この感情にいいように振り回されているな・・・。
「そうだな・・・落ち着いた方がいいよな」
「?」
とりあえずザフィを立ち上がらせて、開け放たれたままだったドアを閉めた。
ザフィは額を擦りながらベッドへと歩いて行く。
そしてベッドに潜り込み横になると、開いた自分の隣をぽんぽんと叩いた。
俺に来いと言っているらしい。
少し考えたが、突っ立って居るのもアレなのでベッドへ上がり、横にはならずそのままそこへ座り込んだ。
「それでー?僕に用事って何ー?」
欠伸を漏らしながら問うて来る。
当然の質問だったが、いざ聞かれると言い難いな・・・。
でもここは腹を括るしかない。
「あぁ、まぁ・・・その、なんだ」
「んー?」
「お前は俺様の事どう思ってんだ?」
自分の気持ちを先に伝えるつもりが、口をついて出たのは違う事。
先にザフィの気持ちを聞く質問になってしまった。
問われた方のザフィは少しだけ目を見開き、驚いたような顔をしてみせる。
突然の事だ。当たり前かもしれない。
「どうしたのー?いきなりー」
「どうもこうも気になんだよ。いいから答えろよ」
「ふーん、そうなんだー」
質問に対する答えとはかけ離れた事を言って、ザフィは笑うとゆっくりと身体を起こした。
窓際に背を預けて座ると、視線は同じくらいの高さになる。
「どうして今更そんな事聞くのー?言葉にしないと不安になったー?」
「今更って・・・俺様は最近気が付いたんだよ」
「え、そうなのー?」
もうこれでザフィの気持ちは分かった気がした。
言葉にしないと不安になる、だなんてそう思ってないと言える言葉じゃない。
けどここまで来たんだ。言葉でしっかりと聞いておきたいと思った。
「いいから言えよ、どう思ってんだ」
「クロウはどう思うのー?」
「俺様?!俺様は・・・」
にやにやした嬉しそうな顔しやがって・・・。
黙っているとその顔を近付けられたので、恥ずかしくなって横に顔を反らした。
するとそっと。頭を撫でられる。
「愛してるよー、とっても大事ー」
「なっ・・・お前っ!」
好きを通り越して愛しているだって?!
思わずザフィの顔を見たら嬉しそうに、幸せそうに笑って居た。
それを見て息が詰まる。
海月はザフィは嘘は付かないと言っていた。
俺だってそう思う。
だから、今のこの言葉も本気で言っているのが凄く良く分かる。
だったら俺の気持ちは?
同じ期間一緒に居て、でも気付いたのは最近で。
今抱えてるこの気持ちを言葉で表すには、まだ愛してるは程遠い気がした。
「次クロウの番ー」
「・・・俺様は、好きだ。お前の事は大事だが、まだ愛してるなんて言えねぇ」
「えー、言ってよー」
「言えねぇったら言えねぇんだよ!」
精一杯の言葉に気持ちを込めて言ったのに、ザフィはもっとと求めて来る。
それでも俺は頑なに拒んだ。
だって言えないモノは仕方無い。気持ちが言葉に追い付いて無いんだから。
もう少しだけ待って欲しい。
ぶーぶー文句を垂れるザフィは俺の首に両手を絡めて抱き付いて来た。
子供みたいに両頬を膨らませている顔は、少し可愛らしい。
「まぁ、仕方無いかー。最近気付いたんだもんねー」
「・・・そうだよ、悪ぃか」
「もっと早く気付いて欲しかったなー」
「言わねぇお前も悪ぃんだろうよ」
「そうー?」
少し首を傾げて考えたザフィは、そうだねー、と続けて笑った。
つられて俺も少し笑う。
それから不意に頭を引き寄せられて、口唇が重なった。
2回目のキス。
ただ、前と違うのは舌が入り込んで来るキスだと言う事。
遠慮無しに動き回るので、こっちも遠慮せずに舐め廻してやった。
キスは慣れて居る。別に驚きはしない。
「さすが、女の子いっぱい抱いて来ただけあってキスは巧いねー、クロウー」
「お前もな。一体何処で覚えて来んだよ、聖職者の癖に」
「秘密ー」
言って笑うとザフィは俺の首から腕を放し、ベッドへと身体を倒した。
寝心地が良い所を探すように動いて、またぽんぽんと自分の隣を叩く。
今度こそ俺にも横になれと言っている。
まぁいいか、と思い仰向けにベッドに背を預けた。
するとザフィは俺の腕を掴むと自分の頭の下へ。
待て。
これじゃあいつもと立場が逆じゃないのか?
「おい」
「眠いから寝てもいいー?」
「いいけど・・・って、待てこら」
「何ー?寝ていいのー?駄目なのー?」
「何で俺様がお前に腕枕すんだよ」
「いいじゃないー、して欲しいんだもんー」
「・・・」
「おやすみー」
ザフィは体勢を横にして俺にしがみつくようになると、目を瞑った。
程なくして呼吸は静かな寝息に変わる。
そう言えば、こうやって寝顔見るの初めてじゃないだろうか。
いつも疲れて俺が先に寝てしまうから。
いくつだっけ、こいつ。
結構可愛い寝顔しやがって・・・。
「まぁ・・・いいか」
完璧にどっちがどっちと決め付けなくてもいいのかもしれない。
まぁ、俺がザフィを抱く事は無いとは思うけど。
眠ってしまったザフィの身体は温かくて、俺も段々と眠気に襲われて来たので眠る事にした。
夜になれば寝かせて貰えないだろうし、今の内に寝ておこう。
なぁ、ファング。
俺結構今幸せかもしれない。
ここまで来るのに色々良くない事もして来たけどさ。
結果よければ全て良しって言うじゃん。何か今正にそんな感じだよ。
これもあんたのお陰なのかな。
今度、こいつ連れてあんたに会いに行くからさ。
その時は話沢山するから、聞いてくれよな。
終。
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どうも!番外編です!やっちまいましたー!!www
ザフィ×クロウ。いやね?二人が出て来たのは別々の時期でこうなる予定では無かったんですが
何か色々話を考えて居たらふと降臨してしまったんですね。怖いですね。カミサマって。
当初考えていた話ではこんなに長くなる予定では無くて・・・。
ザフィとクロウの出会いから、エロシーン挟んでのもやもやで海月に相談するって感じだった筈が、
気付いたら頭からファングが出て来て、血の繋がらない兄になりーの
アリエルのパートナーだった事になりーの、結果的に廃人になりーので。
話を詰め込み過ぎた感も否めないですが・・・(ノд`)
書きたい部分でもあったし、クロウとファングは切っても切れない関係だったので
一緒にしてしまう事にしました。なかなかザフィがちゃんと出て来ないので
やきもきされたかと思います・・・すみません。出て来ても話す程度だったしな。
ところで、二人の年齢ですが!
クロウは海月よりも2つ上=瑠玖と同じ歳。
一方のザフィは海月より1つ年上=華楠と同じ歳。
実は、クロウの方が年上だったりしますwwwwww
きゃーっ年下攻めーーーーーヾ(*゚∀゚*)ノ☆ミ
のんびり天然マイペースだけどドSな年下攻めと俺様なM・・・。
そう考えるとマニアックな二人ですね、こいつらwwwww
そんな感じで!♂×♂番外編。ザフィ×クロウでした。
続きを書く予定は今の所無いですー。
少しでもニヤニヤとして楽しんで戴けたら嬉しいです(゚∀゚)
20100226/まつもとゆきる。
モドル。