廃プリとAXのお話。番外編。
ギルド、と言うモノに入れて貰った。
名前は「風の詩」と言う。
勿論ファングもそこに入っている。
ノービスになって修練所を抜けて、それからシーフになってもう1年経っていた。
俺も17歳になった。もう子供じゃない。ファングにはまだ子供扱いされるけど。
アサシンになる為にはこのシーフと言う1次職から転職しなければならないんだけど
その為にはレベルを上げる必要がある。レベルを上げる為にはモンスターと戦う必要がある。
最初ファングは自分がモンスターのターゲットを取って、俺がそれを攻撃すると言う
壁と呼ばれる行為を少しだけしてくれたけど、俺自身なんだかそれじゃあ楽しくないので
一人でモンスターと戦う事にした。
ファングにお勧めの狩場を教えて貰って、今は使ってないらしいお古の装備を借りて出掛ける毎日。
モンスターが落とすドロップ品を売れば金も稼げるので、自分の金も少しずつ出来て楽しい。
カプラサービスで移動するのも覚えたし、貯まった金で露店街で買い物をする事も覚えた。
プロンテラの南広場にある臨時募集看板を見て、臨時パーティに参加する事も覚えたし。
最近はもう楽しい事ばかり。
後はもうアサシンになるだけだ。
転職するにはJOBレベルを上げる必要があって、目標値は40。
それにももうすぐ届こうとしていた。
今の狩場はアインブロックと言う街の近く。メタリンと言うポリンの仲間を主に叩いている。
ファングも追い上げはここでやったと聞いたので、ここ暫くはアインブロックで宿を取って
ずっとメタリン狩りをしていた。
たまに様子を見にか、ファングやギルドのメンバー達がやって来たりもしたけど、
俺は帰らず篭りっ放し。心配されてたりするんだろうか。
「お?」
自分の冒険者証を仕舞ってある辺りにぽぅっと、JOBLvUP、の文字が浮かび上がる。
取り出して確認すると確かにJOBレベルの数値は40になっていて、
目的が達成された事が目で確認出来た。
ふつふつと嬉しさが込み上げて来る。
「やったー!」
思わずその場で飛び上がって喜んだ。
これでやっと、やっと念願のアサシンになれるんだ。
早速報告する事にした。
ファングに耳打ちを飛ばす。
『ファング!俺だよ』
『うん、どうした?何だか嬉しそうな声だね』
『JOBが40になった!転職出来るよ!』
『おお、やったね。頑張ってたもんなぁ』
『もうこれから行っちゃおうと思うんだけど、見に来てくれる?』
是非ともファングには転職を見届けて欲しかった。
と言うか、ファングは見に来てくれると思って居た。
『・・・ごめん、クロウ。見に行ってあげたいんだけど僕は行けない』
『え、どうして?』
まさか断られるとは思って居なかったので、ずしんと胸の辺りが重くなる。
『急に重要な用事が入ってね。それもどの位かかるか分からなくて』
『俺、待ってるよ?ファング帰って来るまで転職しないで待ってる!』
『いいよ、待たなくて。折角頑張って上げたんだから、転職したいでしょう?』
言われれば確かにそうだ。
ずっとずっとアサシンになりたいと思って頑張って来て、今日漸くその為の目標を達成する事が出来た。
気持ちとしては今すぐにでも転職しに行きたい。
でもファングは見に来てはくれない。
だから葛藤があった。
『そうだけど・・・』
『だったらしておいで。我慢してちゃ駄目だよ。帰ったらいっぱい誉めてあげるから』
『・・・わかった。絶対だよ?誉めてよ?』
『勿論。それじゃあ、そろそろ僕行くから。暫く連絡取れないけど、いい子にしてるんだよ』
『わかったよ。いってらっしゃい』
言った俺の言葉は木霊のように響いて、もうファングと繋がっていない事が分かった。
重要な用事とは一体なんだろうか。
ファングは度々、用事が出来た、と言って出掛けて行く事があった。
何処に行くとも何をするとも言わずに行ってしまって、帰って来ても説明は無い。
一人にしてごめんね、だとか遅くなってごめんね、だとか。謝ってばかりだった。
彼女でも居て、そいつに会いに行ってるんだろうかと考えたけれど
それは別に隠すような事じゃないと思うし。
その場合、何をして来たかなんて事細かに教えてくれなくていいけど。
とりあえず、ファングに言われた通り転職に行く事にした。
丁度ギルドメンバーからギルドチャットで声を掛けられたので、転職に行くと告げると
ジュノーまで迎えに来てくれると言うので。
アインブロックの街に戻って飛行船に乗り込んだ。
アサシンの転職所には数人のギルドメンバーが付いて来てくれた。
そこにファングが居ないのは少し淋しかったけど、一人きりじゃ無い事に安心感も覚えていた。
「いってらっしゃい!クロウ」
「頑張れよー」
励ましの言葉を受けて、気合が入る。
緊張もあるけれど、頑張るぞ。
試験は全部で4つ。
質疑応答問題と戦闘試験。モンスターと接触せずにフロアを抜けるのと、見えない迷路。
俺は頭が悪いので質疑応答問題に相当苦戦した。
何度も何度も挑戦しては、ギルドチャットでメンバーに頑張れ、と声を掛けられ。
なんとかギリギリで合格点。
戦闘試験では指定された名前のモンスターを攻撃すると言うモノ。
これは結構簡単で、石投げを使って倒したりした。
何度か落とし穴に落ちたけど、落ち着いてやったら普通にクリア。
その次はマミーとヒドラが居たけど攻撃するなと言われたので避けて通って。
バックステップを使ったりして難なくクリア。
見えない迷路は手探りで進み、時間をかけて歩き回った。
時々声が聞こえるので、その方向へ歩いてみたら出口だったと言うオチ。
試験て最後の方に向かって難しくなって行くモノじゃないのかと思ったけど。
俺にとっては最初が難関だったよ・・・。
なんとか試験を全てクリアして、非情な心と言うモノを貰った。
これを入り口に居たアサシンに渡せば、試験をクリアした証となり転職出来るのだと言う。
「お、戻って来た」
「クリア出来た?」
「出来たんじゃない?」
「緊張解けたような顔してるしな」
みんなの言葉はさて置いて、アサシンに話し掛ける。
「試験終わったので、これ、持って来ました」
「おお、それは非情な心。試験を全てクリアした証」
手渡すとアサシンは関心したように頷いてそれを懐に仕舞う。
「では、クロウよ。お前をアサシンと認めよう。これからはアサシンギルドに加入し我々と共に」
「?」
最後、言われた意味が良く分からなかったが、目の前のアサシンが言葉を言い切った瞬間、
俺の身体は光に包まれ、元に戻ったと思ったらいつの間にかアサシンの正装に着替えて居た。
一体どうやったのかは分からないが・・・これで俺もアサシンの仲間入りと言う訳だ。
ギルドメンバーのプリーストにブレッシングを連発される。
「おめでとうー」
「おめでとー」
「なんか一気に大人っぽくなったな」
「シーフよりも似合うな」
「・・・ありがとう」
誉められてるんだかなんだか分からないな。
まぁいい。ファングが帰って来たらいっぱい誉めて貰う約束だから。
「ありがとうございました」
転職をしてくれたアサシンに御礼を言って、メンバーの出したポタの光の柱に入った。
着いた所はギルドのたまり場で、そこで暫く雑談をした。
転職祝いに、と沢山の青箱とか頭装備。
そして、ファングから預かっていたと言う、トリプルクリティカルジュルを受け取った。
俺が装備しているモノは殆どファングのお古や借り物が多い。
自分で買い揃えたモノもあるけど、アサシンになってからの武器の事は考えて居なかった。
アサシンは両手に短剣を持った二刀型と、このカタール型に分けられる。
俺は短剣を1本しか持って居なかったので、このプレゼントは本気で嬉しかった。
ファングもカタールを使うアサシンだ。
本当にファングのようになれた気がして嬉しかった。
だが。
そのファングは次の日も次の日も帰って来なかった。
あの時の言葉通り、本当に暫く帰って来られないんだろうか。
そう思いながら貰ったジュルを装備して、ギルドメンバーと狩りに行って帰って来た。
「・・・まだ、帰って無いのか」
もう夕刻。日も沈みかけている。
家に帰って来ても、ファングの姿はそこには無い。
一体何処へ行ってしまったんだろう。
でも、帰って来ると言った。
帰って来たらいっぱい俺の事を誉めてくれると言った。
だからそれを信じて俺は待つ事にする。
とりあえず、空腹なので夕飯にする事にした。
かと言って料理が出来る訳では無いので、露店で買って来た食べ物に齧り付く。
一人、テーブルに座りもくもくと黙って食べていた。
すると、小さく音を立てて玄関のドアが開き、音も無く人影が入り込んで来た。
手に肉を持ったまま、思わず身構える。
「・・・ファング?」
ふらふらとした足取りでベッドまで歩いたファングは、ばたりと倒れ込んだ。
手にしていた肉を放って、思わず駆け寄る。
「ファング!どうしたの?大丈夫?」
「あぁ、クロウ。ただいま」
うつ伏せの体勢のまま、顔だけ上げてファングは言った。
その顔は酷く疲れて居て、目の下のくまも酷い。
一体どうしたって言うんだ。
「顔色悪いけど・・・具合良くないの?」
「大丈夫。疲れてるだけだから。それより、ちゃんと転職したんだね、偉い偉い」
すい、と伸ばされた手に頭を撫でられる。
約束通り誉めて貰えた訳だけど、今はそれよりもファングの事が心配で仕方無かった。
医者でも呼んで診て貰った方がいいのでは無いか、とか。
何か食べさせて、うつ伏せじゃなく仰向けにしてゆっくり眠らせてやった方がいいんじゃないか、とか。
色々と考える。
「頑張ったね、クロウ。これから大変だと思うけど、負けちゃ駄目だよ」
「うん、わかった。わかったから、ファング。疲れてるならちゃんと休んでよ」
「そうだね、帰って早々悪いけどそうするよ」
言ってだるそうに身体を起こすと、ファングはそのまま布団に潜り込んだ。
もしかしたら眠って居なかったのかもしれない。
数分と経たない内に、小さく寝息を立て始めた。
その姿を見て、やっとほっとする。
やっぱり今まで何処に居て、何をして来たのかは言ってくれないし聞けないけど。
こうしてちゃんと帰って来てくれたから。
「おかえり、ファング」
いい忘れてた言葉を眠っているファングに向かって呟いて、俺も寝る為にソファに横になった。
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