廃プリとAXのお話。番外編。


  そこに色っぽい感情なんて、存在はしていなくて。



 バレンタインの日に呼び出された場所。
 そこへ今度は俺があいつを呼び出してやった。
 あれから何度か呼び出されたが面倒で断っていたので、俺からの誘いに驚いていた。
 別に特別な用がある訳じゃない。
 ただ、ちょっと。
 試してみたい事があるだけだ。
 一体どんな反応をされるか、なんてのは粗方想像はつくけども。
 それはそれ。
 やったもん勝ちと言う事で。
 指定した時刻は夕刻。辺りが薄暗くなる頃だ。
 俺は狩り以外で余り昼間に出歩くのが好きじゃない。
 アサシンと言う職業柄のせいなのか性格のせいなのか。
 別にどっちだって構わないが、そうなのだ。
 展望台から見える景色が朱に染まり始めた頃、あいつはひょっこりと現れた。
 これから何をされるかも知らないで、能天気に。
「久し振りー。何かクロウから呼び出されるって変な感じ」
 アサシンギルドでのパートナーの海月だ。
 へらっと笑うと立っている俺の隣へ来て、その場に腰を下ろそうとする。
 その完全に油断した所へ。
 俺は足払いをかけた。
 簡単に海月の身体は地面に転がる。
「・・・ってぇ」
 頭でも打ったんだろう。
 両腕で頭を抱えて呻いている。
 その身体、腰の辺りを跨いで地面に膝を付き無理矢理腕を引き剥がした。
「え?」
 驚いたように見開かれる目。
 その薄青い瞳は下から俺の事を見詰めている。
 掴んだ手首は思って居たより細かった。
 同じ男の筈だが、もう少し骨太でもいいと思う。
 無駄な肉が付いてないと言ってしまえば聞こえはいいが、男としてこれはどうなんだろうか。
 そんな手首を地面に張り付けるように押さえ付け、身動きを取れなくしてみる。
 まだ、一体何をされているのか分からない、と言った風な顔をしている海月は、一切無抵抗。
「へぇ・・・抵抗しねぇのか」
 言いながら顔を近付ける。
 いつもの事を思い出しながら、耳元に口を寄せて囁くように呟いた。
「もしかして慣れてんの?」
「なっ」
 今の言葉で一気に海月の身体に力が入った。
 なるほど。
 こいつは挑発に乗りやすい、と。
 だが、簡単には離さない。力は俺の方が上だ。
「夜な夜な行きずりの誰かと?それともあれか、相方の殴りプリか?結構逞しかったよなぁ」
 前に狩り場で見かけた頭にたぬきの殴りハイプリーストを思い出す。
 結構いいガタイしてたっけ。
 余り良く覚えて無いけど。
「・・・お前っ」
「海月ちゃん可愛いから、そっち系にモテモテなんですかねぇ」
 天使の羽耳を口唇で弄るとくすぐったいのか感じるのかどっちなのか。
 海月はびくんと身体を揺らした。
 それを見て、一気に興醒め。気分ガタ落ち。
「クロウっどう言うつもりだよ!」
「どうもこうも?ちょっとやってみたかっただけ」
 ぱっと海月の手首を離して、耳元から顔を上げて。
 身体を跨いで居た腰を上げて立ち上がった。
 あーあ。何をやってんだ、俺は。
 まぁ、反応は予想通りと言うか、それ以上と言うか。
 海月が相方とデキてんのは良く分かった。
「説明しろよっクロウ!何なんだよ、今のはっ」
 海月が怒るのも当たり前と言えば当たり前の事。
 事実、俺は海月の事を押し倒した訳だから。
 別に海月に対してそんな気は無い。
 元々他人に余り興味が無いし、生憎今までそんな感情を持ち合わせた事がない。
 海月を押し倒した後の今だって、特に何とも思ってなくて。
 海月が可愛いだとか言ってみたけど、そんな事微塵も思ってないし。
 まぁまぁ、綺麗目な顔立ちだとは思うけど。
 そっち系にモテるんだろうな、と思うのは本音。
 細いなと思った手首にも、跨いだ時に細いなと思った腰にも
 別にムラムラしたりもしなかったし。
 ともすれば、やはり。
「聞いてんのかよ、クロウ!」
「何だよ煩ぇな」
「煩いって何だよ!」
 背中を向けて考え込んでいた俺に向かって海月が牙を向けて来る。
 面倒だけどやっぱり説明しないと納得しないか、こいつは。
 海月に身体ごと向いてやって、どっかりと地面に腰を下ろす。
 それを見て海月も地面に腰を下ろした。
 その顔は膨れっ面。
「ちゃんと説明しろよな!」
「わーかったよ。怒鳴るな」
 何処から話を始めればいいんだ?
 出会い?そんな所から始めたら夜が明けてしまう。
 全く、本当に面倒臭い。
 用が済んだらさっさと置いて帰るんだった。
「まぁ、あれだ。お前と似たような事なんだがよ」
「は?俺と似たような事?」
 眉間に皺を寄せて海月はさながらオウム返し。
 こう言う質問のされ方、俺は大嫌いだ。
 何故察してくれない。
「お前、相方とデキてんだろ?殴りの」
「えぇ?!何で知ってんの!!」
 はぁ・・・。
 知ってるも何も。身体が正直に教えてくれましたよ、と。
 そう言えばいいのか、おい。
 こいつは誘導尋問にも引っかかり易い、と。
「そうなんだろ?」
「・・・うん、まぁ。そうだけど」
「俺様もそう言う事なんだよ」
 俺の言った意味が分からないとでも言うのか。
 数秒固まってしまった海月は、何度も瞬きを繰り返し。
 その後、思い出したように驚いた顔をして上半身だけ後ずさった。
 ・・・わざとらしい動き。
「お前、相方居たの・・・?」
「居ちゃ悪ぃかよ」
「いや、悪くは無いけど。そんなだから居ないんじゃないかと」
「煩ぇよ」
 俺に向かって軽口を叩く、海月の頭を叩く。
 思い切り平手で叩いてやったので、ペチンといい音がした。
 身をすくめた海月だったが、その目はまだ驚いた様子のままでこちらを見詰めている。
 俺に相方が居る事がそんなに不思議だろうか。
「それで、俺もそう言う事って・・・そう言う事なの?」
「だから、そう言ってんだろうがよ」
 あー、もう。面倒臭い!
 こいつは恋の話をしたい女子か!!!
 と、思ったら海月は首を捻って何かを一人で考え出した。
 腕を組み、首を右に捻り左に捻り。
 ん?だのあれ?だの独り言を呟いては、眉間に皺を寄せながら考えている。
「あのさ、ひとつ聞くんだけど」
「何だよ・・・」
「俺と似たような事ってだけで、同じじゃないよね?」
「は?」
 何を聞かれて居るのか全く分からない。
 海月と相方がデキてる。
 俺と相方もデキてる。
 それでいいんじゃないのか。
「うん、だからね?平たく言うと、女役なのは相方さんでいいんだよな?」
 固まるのは今度は俺の方だった。
 海月がそこまでを考えて話して居たとは思わなくて。
 その事は別に隠すつもりは無くて、これから話そうと思っては居た事だったんだが。
 海月の方から出されるとは思って居なかったので、面食らってしまった。
 数秒置いた後、ゆっくり呼吸しながら言葉にする。
「いや、そっち側は俺様」
「そうか、そうだよね・・・って、えええええええええ?!!」
 叫び声がそこら中に木霊する。
 耳の奥がキーンとして痛い。
 至近距離で大声出しやがって、馬鹿野郎。
 大口開けた阿呆面の額を拳でごついて、耳を擦る。
 何だか相当ショックだったのか、海月は口を開けたまま暫く俺の事を見ていた。
「何だよ、そんなにおかしいか?」
「うん、おかしい。全然想像出来ない」
「俺様だって、お前が喘いでる姿なんか想像出来ねぇよ」
「・・・しないで下さい」
 海月は地面に両手を付いて頭を下げた。
 所謂、土下座と言う奴だ。
 頼まれたって金を払われたって出来ないモノは出来ないんだから
 しないで下さいも何も無い。
 でも、こう言う感じで頭を下げられるってのは優越感に浸れるのでなかなかいい。
「それでよ、お前と相方ってどんな感じなんだよ」
「え?」
「いや、別に最中の事だけじゃねぇけどさ」
「んーそうだなぁ・・・普通の恋人同士とあんまり変わんないと思うけど」
「恋人ねぇ・・・」
 そう言われて脳裏に過ぎるのは、余りにも殺伐とした光景。
 例えるならば快楽を求め合うだけの獣。
 行為は言う成れば交尾のようなモノだ。
 無意識に溜め息をついていた。
「クロウんトコは違うの?」
「違ぇよ。そんな甘ったるいモンじゃねぇ」
「そうなの?身体の関係あるなら恋人じゃないの?」
 無垢な青い瞳は真剣な眼差しを向けて来る。
 本気で言ってんだな、こいつは。
 俺もこいつくらい純粋だったらどれだけ良かったか。
「恋だのなんだのって言う前に寝ちまったからな。ねぇな、そう言うの」
「それって何か、順番違う」
 俺だって思ったさ。
 まさかあんな事になるなんて思っても居なかった。
 そして未だにあんな奴に縋らなきゃ、まともに生きて行けない自分。
 あいつに対する気持ちが一体何なのか。
 それをちゃんと確かめたくて、それで今日海月をここに呼んだんだ。
「でもよ、何か最近依存?よく分かんねぇけどそんなんあってよ。気持ち悪ぃからはっきりさせたくてな」
「ふぅん。それで俺で試したんだ」
「何だよ、海月にしちゃ良く察したじゃねぇか」
「海月にしちゃって何?海月にしちゃって」
 膨れてみせる海月だったが、誉めてやった事が分かったのか半分は嬉しそうな顔だった。
「相方さんの方はどうなの?クロウの事好きっぽいの?」
「それが良く分からねぇんだよ。ぼーっとしてっから。スロウペース、マイペースでよ。
 まぁ、それでも。殆ど毎晩俺様の事抱きに家に来るぜ?」
 今日は用事があって来れないとか言ってたけど。
 別に来れないなら来れないでいい。正直、毎日抱かれるのは疲れる。
 性格と一緒でスロウでマイペースなセックスかと思えば、それとは裏腹に結構責め責めで容赦が無い。
 喋ってる言葉は相変わらずスロウなんだがな。
「そうなんだ・・・」
「まぁ、俺様の事抱きたいだけなのかもな。ザフィも」
 言ってしまってから、おっと、と口を塞いだ。
 うっかりと名前を口走ってしまった。
 一瞬だったので、海月の耳には入っても右から左で流れて行ったと思ったのだが。
 海月は驚いた顔をして、目を見開いていた。
 そして、一度目を閉じてから。ゆっくりと開けて。
「今、ザフィさんって言った?」
 まるで知り合いの名前のように、その名を口にしたのだった。


  #2→
    






PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル