廃プリとAXのお話。
「教…会…?」
そう。
訳が分かってない海月を半ば無理矢理引っ張って来たのは、我らが大聖堂。
通常はここで結婚式が執り行われる。
「瑠玖!」
「しーっ声でかいで」
「ごめん…だけど…」
門が閉まってると言いたげに、海月は鉄柵を見上げて居た。
いいんだ、これで。俺はこれを狙ってた。
「これ、なんやと思う?」
「え、鍵…」
「鍵は鍵でも、普通の鍵やないねん。マスターキーって言うてな?」
カチャリ。
言いながら、俺は門の鍵を開けて見せた。
これでも、俺。
教会に集うハイプリーストの頭やってんです。
結構偉いのです。
まぁ、こんな私情に使うなんて偉いんだかどうかわからんけど。
「瑠玖…」
「よし、行くで」
俺達の手はいつの間にか繋がれて居た。
無理矢理に連れて来た事と、今こうして門を開けてしまった事に不安を覚えたのか
海月の俺の手を握る手には力が篭っていた。
「大丈夫。今やったら誰も居らんから」
「そ、そうじゃなくて」
何か言いたげな海月をまた引っ張って歩く。
教会って結構厳重に警備されてて、何個もドア開けたけど。
それに関してはもう海月は何も言わなかった。
何か、別の言いたい事がある。
それも分かってる。
歩いて歩いて。
教会の最奥。
今日、俺達が座ったような長椅子が対にいくつも並び。
その間にはバージンロード。
正面を向くと祭壇がある。
年間何組もの恋人達が結婚式を挙げる、婚礼の間。
靴音だけが響く空間。
少し大きめな声を上げれば反響してしまいそうな程に静まり返って居る。
そう、俺達以外には誰も居ない空間。
「よいせっと」
新郎新婦が立つ祭壇の段差に上がった。
少し躊躇いを見せたが、海月も並んで上がった。
「瑠玖…」
「お前さっき言うたよな。毎日幸せやって。俺と居て」
「…うん」
繋いだままの手を引いて、俺の手の平に海月の指が乗るように組み直した。
繋いでいた手、乗っているのは左の指。
「祝ってくれる奴らは誰も居らんし、こやって忍び込んでこんなこっそりで。
俺とたった二人切りやけども」
たった二人切りと言ったら、海月はふるふると首を横に振った。
俺が海月の左手を握って居る事。
二人が立っている場所。
こっそり、と言う事。
それで察してくれたらしかった。
「誓ってくれる?俺との永遠」
自分が言ってる事がクサ過ぎて、半笑いだったけども。
言葉に偽りは無くて。
海月を見詰めて居たら、しっかり頷いて。
「ちっ…誓う」
海月の声が裏返る。
「お前、それ今日のマスターみたいやん」
「だって…なんか緊張してて」
「そんなん俺かてしてるわ」
「嘘だぁ!」
「おっ前…!」
勢いだろうが、大きな声を出した海月を、思わず胸元に隠すように抱き締めた。
やっぱり声は反響してそこら中に響いた。
胸元でもごもごと海月は『ごめん』と呟く。
その後少し沈黙して。
どうしようかと考えていると。
「でも、分かった。瑠玖の心臓凄いドキドキしてた」
「せやろ?だから言うたやん」
凄く嬉しそうな顔を上げて来たもんだから、そのドキドキが増しました。ってのは置いといて。
改めて向き直って、俺達はこっそりと二人だけの式の続きをした。
式って言っても真似事にしか過ぎない事は分かっている。
それでも、やり遂げたかった。
真似事だけなら、家でも出来た。
誰も居なくたっていい。
二人だけでもいい。
この場所に立つ事が大事だった。
その為にここまで来たんだから。
一応聖職者の俺が、そんだけ覚悟したって事。
だからさ、神様。ちょっとだけ見逃して?
「ほんっ・・・っにこぅ、はぅで・・・すんんぅ」
多分、翻訳すると『本当にここでするの』になるんじゃないかと思う。
婚礼の間からお姫様抱っこで自由を奪って、キスし続けたまま連れて来た。
大聖堂の中はもう慣れたものだから、視界の中に少しでも壁やドア、
曲がり角とか、燭台とかが見えれば、大体ここかなとわかるくらいだ。
連れて来たのは、プリーストの頃に蓮と共同で使っていた休憩室。
プリーストの頃はやたらやる事が沢山あって、大聖堂に泊り込んだりする事もあったので
仮眠が取れる部屋が与えられていた。
まぁ、それは昔の話で今は誰が使ってるかわからないけど。
文句や疑問を抱きながらも、じたばた暴れないのが海月の可愛い所。
口唇を離し、ベッドと呼ぶには貧相過ぎる所へそっと海月を降ろした。
まだ息が整っていないようではふはふしている。
呼吸なんかこれからもっと整わなくなるのに。
片足を海月の脚の間にねじ込むように、ベッドに乗せて覆い被さってみた。
ギシと貧相なベッドが軋む。
「ちょ、ちょっと待って。本当にここでするの?!」
「結婚初夜は大事やで?奥さん」
「奥さ・・・」
奥さんと言う言葉に、なんだか過激に反応した海月は耳まで赤くなってしまった。
その隙に俺はするりと海月の上着の中に手を滑り込ませる。
風呂の後でさらさらな肌触り。気持ちよくて腹の辺りから円を描くようにして
撫でながら、上へ上へとのぼった。
「やっ、ちょっと」
今更気付いてももう遅いぞ、海月。
愛撫はもう始まってしまったのだ。はっはっはっは。
「んー・・・」
何か考え込むように眉間に皺を寄せた海月は、小さく「まぁ、いっか」と呟いて。
俺の首にするりと腕を絡ませてきた。
「大事な初夜ならちゃんとしたベッドでしたかったですけどね、旦那様」
そう言って、ちゅっとついばむだけのキス。
あぁ、奥様にパワーがあったように、旦那様にもパワーがあるなぁこりゃ。
だが俺は負けん!負けんよ!!負けてなるものか・・・!!!
「・・・瑠玖。顔がにやけてる」
「そ、そんなないで?旦那様が嬉しいとかそんなないで??」
あーあーあーあー、ぱにくってる、俺ぱにくってる!!!
「そうですか?旦・那・様?」
にこぉと満面の笑みで楽しそうに言ってくるので、もうこれしかないと思って。
頭押さえ込んでキスして口塞いで。
そのまま愛撫へと移った。
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