廃プリとAXのお話。
ルティエは冬の国とも呼ばれている。
その由来は年中雪が降っているという単純なものだが、
こう言った四季の無い国は珍しい。
まぁ、だからと言って年中クリスマスフィーバーと言う訳でも無いが
街の中にはどでかいモミの木が生えていて、キラキラのゴテゴテに飾りは付けられているので
ルティエに来るとクリスマス時期じゃなくても、なんとなくそんな雰囲気を味わえる。
街の最奥にはおもちゃ工場と言うダンジョンがあり、まばらに来る冒険者がそこへ向かうのだが。
今はクリスマス時期と言う事もあってか、訪れて居る人も多く
普段はしんしんと雪の降るルティエの街が活気付いているように思えた。
やれ、クリスマスボックスだの、やれ、指輪に名前が入れられるだのと
イベントも多いのも要因かもしれない。
「ちょっと早く来ちゃったね」
ルティエでの結婚式場の前で海月が呟いた。
いつもの正装にマフラーと手袋。可愛い。
そんな俺もマフラーに手袋なんですけど。
雪は真っ白で綺麗だが、寒いのが問題であるかもしれない。
「海月ー」
「んー?」
「俺ちょっとどっかでトイレ借りてくる!うんこしたい」
「ちょっと、バカ!そんなでかい声で!」
寒さでか、恥ずかしいのでかどちらか分からないが
顔を真っ赤にした海月に背中を押されて俺は一人、トイレを借りに…。
と、言うのは海月には悪いが大嘘で。
このクリスマスのイベントにホイホイとつられる事にしたのだ。
まだ時間に余裕もあるし。
鼻歌なんぞ歌いたい気分で目的の場所へ。
「うわ…」
思わずそんな声が出た。
目的だったその場所では人がひしめき合っていたのだ。
やはりイベント事となると集まってくるもんだなぁ。
まぁ、例に漏れず俺もその一人な訳だが。
えっと…名前を刻んでくれるのは確か…。
遠目に伺う。
今年の担当はバレンタインの時に悪戯をして泣かせてしまったカプラWのようだった。
うう、近寄るのは気が重いが…ここは行かねば。
「あのぅ…」
恐々声をかけてみる。
俯いてため息を吐いていたカプラWは、『はいー…』と力の無い声を出して顔を上げた。
バレンタインでの事を覚えられていて、罵られるかと身構えたが。
何だかそんな様子も無く。『瑠玖さんですか…』と力無く言ってまたため息を吐いた。
「どうしたん?なんか元気ないな」
「そうですねぇ…私の今回のお仕事はプレゼントにお名前を書くお仕事なんですけど、
みなさんプレゼントを贈り合ったりりしていて楽しそうで…。うう」
「…羨ましい訳や」
「そうなんで…っそ、そんな事ないですよ!ただこんなにもお客さんが来ると思って無くて。
なんだか疲れちゃって、です。はい…」
利き手らしい右手をさすりながら、またため息。
さっさか終わると思っていたが、これはちょっと時間かかりそうだなぁ。
なんとか元気を出して貰って、俺のだけでも名前刻んでくれないもんか。
そんな自己中心的な事を考えていると、さっきのカプラWの言葉が頭の中で反芻した。
要は自分はプレゼントになる物を作っているだけで、貰えないから羨ましいのだ。
じゃあ?プレゼントをあげたら元気を出してくれるのでは!!!
そんな単純じゃないかもしれないが、ものは試し。
俺は持っていたプレゼントボックス、包装紙、包装リボンを、
カプラWの隣に居る、テーリングに包んで貰うようにお願いした。
本当は海月への贈り物にする予定だったけど…倉庫漁ればまだあるだろうし。いいや。
包んで貰ったプレゼントボックスには俺の名前が書かれていた。
そっかぁ、こいつ指輪に名前刻む仕事しかしてなかったのか。
そりゃ重役だわなぁ…。
「ほい」
「え?何ですか…」
カプラWは俺が渡したクリスマスボックスを訝しげに見ている。
バレンタインの事もあるから、警戒しているのだろう。
あの時はほんとごめん…。
「俺からのクリスマスプレゼント」
「えっ?ホントですか?!」
「うん。せやから元気出しぃな」
「わー…ありがとうございます!」
カプラWは箱を潰しそうな勢いで胸にぎゅうっと抱き締めた。
そんなに嬉しかったか…。そしてそんなに羨ましかったか…。
なんか可哀想になって来たから、指輪はいいかな。
「じゃあな、元気出せよ!」
そう告げて立ち去ろうとしたら。
「うげっ」
後ろからぎゅうっとマフラーを引っ張られた。
苦しい…死ぬ…。
「ちょ、何すんねん!」
「待って下さい!お礼したいので、何かさせて下さい!」
「へ?お礼?」
言うとカプラWはにこにことして頷いている。
プレゼントを貰っておいて、お礼の言葉を述べた後で。
それ以上にお礼がしたいって。流石カプラサービスって言うだけあって
サービス精神旺盛だな。なんかペンだこみたいの出来てるほっそい指見ると
言いにくいけど…。折角だし。
「…じゃあ、これに俺の名前彫ってくれんかな?」
「はい!わかりました!」
銀色の指輪を手渡すと、カプラWは丁寧に持ち直し。
後ろにあった椅子に腰掛けると、ペン状の機械を取り出してがりがりとやり始めた。
カプラWに何となく申し訳無い気持ちになりつつ、海月の待つ所へ戻る。
すると視界に俺が入ったのか、ぱたぱたと海月が駆け寄ってきた。
「…瑠玖、大丈夫?お腹痛い?」
「え?」
「や、なんか…時間かかったみたいだし、苦しそうな顔してるから…」
そうだった。俺は海月にうんこしてくると言って離れたのだった。
結構時間かかったみたいで、心配させてしまったようだ。
「やー、イベント時期ってのはトイレが最大手やなぁ」
「は?」
「いやいや。大丈夫やで?どーんと出たしな。苦しいのは…そう。肛門が…」
「ちょっ…!」
慌てた様子で俺の口をもふもふの手袋でぎゅっと塞ぎ、
少し身体を寄せて来た海月はそっと呟いた。
「…帰ったら薬塗ってあげようか?」
「!!!!」
口を塞がれているせい、否、お陰で変な悲鳴を上げずに済んだが…。
してもいないうんこ、痛くも無い肛門。
それを知らずに全力で心配してくれる海月。
いつも嘘を嫌う俺が、自ら海月を騙してしまった事にとても反省する。
が。が!、だ。
肛門に薬を塗られると言う事はすなわち。
このもふもふの中の海月の指先が、俺の肛門をなぞると言う事ではないだろうか。
逆ならいい。
俺が薬を塗ってやるのも触るのも挿れるのも、喜んでやるし!
海月の指先が、俺の肛門をなぞると…いやもうなんかもう…。
とてつもなく恥ずかしいじゃないか!見ないで!見ないで!!!!!
…と、想像し頭の中で叫ぶ程である。
毎日のように海月のそこを見て、触って、舐めて、挿れて…としてる割に
いざ自分がそっちの立場になると考えると、ぞぞぞっと背筋に寒いものが走る。
海月にも恥ずかしい思いさせてんのかなぁ。
いやいや。
海月が恥ずかしがるのはいいのだ。可愛いから。
「瑠玖?」
いつの間にやら、口元のもふもふの感触は無くなり、
代わりに心配そうな色をたっぷり含ませた蒼い瞳がじっと見上げて来ていた。
…余計な心配させたなぁ。
「大丈夫やで。薬やったら自分で塗れるし!」
頭をぽんぽんとしてから軽く撫でてやる。
「そう…?ならいいけど」
「うん、大丈夫」
ごめんなぁ、海月。
肛門をお前に見せるのだけはどうしても回避したい。
自分が付いた嘘でこんな流れになってしまったのは自業自得。
やっぱり、嘘はいけない…。反省、反省。猛省。
もうしません、許せ、海月。
そんな気持ちで居たら、自然と海月を抱き締めて居た。
「瑠、玖っ!人、人前っ」
柔らかい金髪にすりすりしていると、胸板をもふもふが押し返す感触。
可愛い。力いっぱい押し返す訳じゃない所がまたもう可愛い。
そう思ったら、自然抱き締める力が強くなっていた。
「もぅ、ちょっと」
押し返すもふもふ、だけど文句を言う声は笑っていた。
ホントは嫌じゃないくせして反発してみせる。
あー、可愛い。もう可愛い。
帰りたくなって来た。
帰ってもうほら、存分に!!!
「あれ?瑠玖と海月じゃん?」
聞き覚えのある声。
「なんだよ、相変わらずだなぁ」
「人目を気にせず乳繰り合えるのはやっぱ、お前らくらいだな」
その言葉に、賛同の意を示す声が上がり、わっと周りが沸いた。
懐かしいその感じ。
視線を向けると懐かしの顔が勢揃いしていた。
ちらほらと知らない顔も混じっては居たが、殆どのメンバーは変わって居ないようだった。
今日の主役である、二人が所属するギルドの面々。
かつては俺と海月も所属していた、風鈴の音の面子だった。
「寒いねん、悪いか!」
「誰も、悪いなんて言ってないだろ」
「つか、遅いやろお前ら!どんだけ待たせんねん」
「瑠玖。俺達が早く来ちゃっ、ふぐ」
文句を言おうとした海月をぎゅうと胸に押し付ける。
懐かしい、こんなやり取り。
そうしていると、今日の主役の二人が現れた。
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