廃プリとAXの昔話。


 ごっそりとアイテムの入った皮袋をギルドメンバーのアルケミスト、白雪のカートに詰め込んだ。
 白雪は名前の通り透き通った真っ白で綺麗な髪をしていて、それを左右に分けて結んでいる。
 以前、瑠玖の分にと清算金を分けておいてくれたあのアルケミストだ。
「コレを売っておけばいいのね?」
「うん、ちょっと量が多いんだけど頼んでいいかな?」
「いいわよー。海月ちゃんの頼みだもの、断れないわよ」
 うふふ、と笑ってガッツポーズをしてみせる。
 露店を開ける商人系の職業は人気者である。
 消耗品の代購からアイテムの委託販売。時には狩り中のドロップ品持ち係りにまで抜擢される。
 今回、海月はアイテムの委託販売を白雪に頼んだ。
 内容は瑠玖と行った崑崙でのドロップ品。主にローヤルゼリーと蜂蜜、古木の枝である。
 残念ながらカードの類はドロップしなかった。3日も篭ったんだけどなぁと海月は心中で呟く。
「じゃあ、売れたら教えるわね」
「うん、よろしくね」
「あ、それから。お金は二人分に分けておいた方がいいのよね?」
 白雪は気が効く娘である。
 ちゃんと海月が瑠玖と二人で狩りに行ってのアイテムだと理解しているのだ。
 うん、と海月は頷いた。
 白雪は片目を瞑って指で輪を作って見せた。
 「オーケー」と言う訳だ。
 白雪は重たそうにカートを引きながら海月に背を向けると、たまり場のほぼ真んで胡坐をかいて瞑想しているような
 眠っているような。どちらかわからないプリーストの耳をつまみ上げた。
「いででででで」
 即座に痛がり声を上げたと言う事はどうやら起きていたらしかった。
 紫色の髪をした男のプリースト。名前はザフィ。よくたまり場でこうして胡坐をかいているのを見る。
 かと言って狩りに行かない、と言う訳でもなく。いつの間にかふらっと居なくなってはふらっと戻ってくる不思議な奴なのだ。
「何すんの、白雪ー、痛いじゃない」
「寝てんのか起きてんのかわかんないんだもん、あんた」
「座ってるんだから起きてますよ」
 俺も寝てるかと思った・・・と心中で思う海月だった。
「プロポタ持ってない?」
「あぁ、ありますよー」
 よいしょ、と腰を上げて呪文を紡ぐ。

 ワープポータル!!

 ・・・・・・。
 しん、と静まり返るたまり場。
 地面に広がる筈の魔方陣が広がらない。
 あれぇ?と上半身ごと身体を傾けて腕を組むザフィ。
 はぁ、と溜息をついて白雪が顔を手で覆った。
「あ!」
 身体を元に戻して、ぽんっと手を打つザフィ。
 ごそごそと道具袋を確認してから「やっぱりー」と口にする。
 なんだか分らない海月は呆然として見ている事しか出来なかった。
「青石無かったんで取って来ますー」
「・・・やっぱり」
 ザフィの言葉にガクっと膝の力が抜け、その場に転んでしまいそうになる海月だった。
 白雪は膝に手を付いて、先程よりも大きく溜息を吐く。
 そして海月を見て苦笑する。
「ザフィって見てくれはいいんだけど、どっか抜けてんのよね」
「あはは・・・」
 海月も乾いた笑いを漏らす事しか出来なかった。
 自分も結構間抜けと言うか、学習能力が無いと散々瑠玖に言われて来たが
 多分ザフィ程ではないだろうと思った。
 ちなみに、ザフィはME型のプリーストだったりする。
 MEには青石=ブルージェムストーンが必要不可欠な筈で、例え狩りに行かずとも常に携帯しているプリーストが殆どだ。
 持っていない状態でそのまま狩りに行ってしまっていざという時MEが撃てない、なんて事を防ぐ為に。
 だが、ザフィは青石を必要とする魔法を唱えて、それが発動しないのを確認してから持ってない事に気付いてしまったプリースト。
 ME型として果たして大丈夫なのかと、人事ながら海月はとても心配になってしまった。
「お待たせー」
 ひらひらと手を振りながらザフィが戻って来た。
 ちゃんと手に青石を握り締めて居る。
「ねぇ、ザフィ。持って来たのそれひとつだなんて言わないでしょうね?」
「え?そうだけど?」
 なんでー?と言わんばかりに頭の上をはてなマークでいっぱいにするザフィ。
 だめだこりゃと呟いて顔を手で覆う白雪。
 身体の力が抜けるのを感じ呆然とするしかない海月。
 二人を交互に見ながら首を傾げ、それでもマイペースで呪文を紡ぎ出すザフィ。

 ワープポータル!!

 今度こそ。
 地面に魔方陣が広がり中央に光の柱が立ち上る。
 あぁ、よかった。と白雪が呟く。
「ちゃんと、プロンテラよね?」
「そうだよー」
 にこにこして、どうぞーと中央の光の柱へ向かい手を伸べるザフィ。
 魔方陣の上に脚を踏み入れ、白雪は海月を振り返った。
 呆然とし過ぎたのか、海月はその場に腰を下ろしていた。
「じゃ、露店して来るわ。またね、海月ちゃん」
「いってらっしゃーい」
 手を振る白雪に、海月も手を振って返す。
 光の柱の中に白雪が入り込みひゅんと姿が消えてなくなる。
 すると何故かザフィもその後に続いて光の柱へと入って行ってしまい、魔方陣は綺麗に消えて無くなった。
「ザフィさんって不思議な人だよなぁ・・・ホントに」
 世間ではあれを「天然系」と言うらしい。
 それが好きな人種も居るらしいので、ザフィは何処かで人気者なのかもしれない。
 今日はたまり場には木ノ葉の姿は無かった。
 聞く所によると、彼はそろそろレベルが99でオーラ間際らしい。
 何処かで狩りをしているのかもしれなかった。
 オーラになったらどうなるのだろう、と海月は思った。
 アリエルもキエルもアサシンギルドの幹部達は皆アサシンクロスと言う職業だ。
 どうすれば、アサシンクロスになれるのか。
 いつかは自分もなれるのだろうか。なれるのなら、なってみたい。
 海月はたまり場の端っこでぽつんと一人で朧にそう思った。



 毎日の定刻連絡の時間少し前。
 海月は自宅に戻ってぼんやりとベッドに腰掛けていた。
 独り暮らしの部屋。家具らしい家具は殆ど無く、あるのは申し訳程度の食卓テーブルと質素なベッド。
 薪を入れて火をおこすくらいの粗末な暖炉と何本かの蝋燭。
 それだけだった。
 家族はもう居ない。生きていない訳ではないが、アサシンになると告げた時に縁を切られてしまった。
 家系はモンクの家系だった。モンクと言えど聖職者の家系。
 最愛の息子が聖職者である自分達と相反するアサシンになると言うのを、どうしても認める訳にはいかなかったのだろう。
 それでも、海月はアサシンになると決めたのだ。
 決して悪者になりたかった訳ではない。見てくれに惚れたと言うミーハーな理由でも無い。
 ただ、説明し難い何かが海月をアサシンに惹きつけてやまなかったのだ。
 運命だったのか、天命だったのか。今となっては分らないが。
 海月はこれで良かったんだと思っている。
 定刻と決めたのは日が落ちかけた頃。空が朱色に染まった頃だ。
 窓の外を見れば、多少雲がかかってはいたが空は朱色に染まり街並みを染めていた。
『華楠。俺だよ。聞こえる?』
 耳打ちを送ってみる。
 数秒待ってみたが返答が無い。
 何かあったのかな、と心配になり再度声をかけてみる。
『華楠?俺だよ、海月だよ。華楠?』
 再び数秒間が空いて。
『ごめん!ちょ、ちょっと待って』
 慌てた声が帰って来た。
 待って、と言われたので素直に待つ事にする。
 そうしているうちに日が完全に沈み、部屋は真っ暗になってしまったので、海月は蝋燭に火をつける事にした。
 ひとつひとつ丁寧に。段々と部屋の中が淡い光で照らされて行く。
 明るくなると部屋の質素な感じが増すなぁ、なんてぼんやり思っていると。
『ごめん、お待たせ』
 華楠から耳打ちが帰って来た。
 連絡の始まりだ。
『ちょっとお風呂入ってて、ちょうど出るとこだったから。別に見られてる訳じゃないんだけど恥ずかしくて』
『そうだったんだ、タイミング悪くてごめんね』
『ううん、いいんだけど』
 照れたような声。
 華楠の声は透き通っていて耳に優しいな、と海月は思う。
 華楠自身も凛とした綺麗な顔立ちで、芯のしっかり通った素敵な女の子だ。
 初めて会った時はドキっとしたのを覚えている。
 純真で素直でとても真っ直ぐで。一緒に居てとても心地がいい。
 これは恋の予感!と思った事もあったが、彼女はパートナーだからかそこまでの感情になる事は無く。
 今では友達以上だが恋人までは行かない関係を保てて居る。
 肩を抱いても抱き締めてもドキドキする事なんてないし、逆に安心してしまうのだ。
 まぁ、自分には無い身体の膨らみにドキドキしてしまう事はあるけれど、それは一時的な事。
 出来ればレベル差を広げる事なく、これからもパートナーとして一緒に居たいと海月は思う。
『それで、どう?今日の成果は』
『んー、もうやっぱり必死狩り!相方ってば息巻いちゃってさ。どんどんレベルの高い所行こうとするのー』
『相方さんもレベル同じくらいなんだっけ?』
『うん、そうなんだけど。無理って言ってるのに行くから、今日デスペナ貰っちゃったわ』
 デスペナとはデスペナルティの略である。
 モンスターとの戦闘時に体力が大幅に無くなり、気絶してしまうとモンスターとの戦闘で取得出来る
 レベルアップの為の経験値の一部がマイナスされると言う訳だ。
 まぁ、取り戻して来たけど。と華楠は続ける。
 負けず嫌いな所も華楠の性格の一部である。そこもまた可愛いと海月は思う。
 華楠の相方は支援型のプリースト。名前や詳しい性格まで、海月は知らなかった。
『でも、一応今日も1上がったから・・・あと3かしら』
『凄いな、早いよー。俺まだ2しか上がってないのに』
『そりゃ必死狩りだもん、上がるわよ』
『でも、このままのペースならあと3日もあれば80達成出来そうだね』
 海月がそう言うと華楠は『えー』とあからさまに嫌そうな声を出した。
『上がるのは嬉しいけど、少しは休みたいー』
『あぁ、そうか』
 駄々をこねるような声に海月は笑い声を上げた。
 笑われたのが嫌だったのか華楠は『笑わないでよー』と拗ねたような声を出す。
『海月は何処で狩ってるの?相方さん殴りなのよね?』
『うん、俺は崑崙篭ってるよ。明日ニブル行ってみようかって話しをしてたけど』
『ニブルかぁ、ニブルも行ったなぁ・・・』
 今一体華楠が何処で狩りをしているのか見当もつかない海月だった。
『相方さんに、無茶狩りちょっと止めてって言ってみたら?』
『・・・言って聞くような奴だったらもう止まってる』
『あらら』
『まぁ・・・支援の腕は信用してるから、いいんだけどね』
 華楠の話し方からして、相方のプリーストは男らしい。
 男でなければ相手に対し「奴」なんて華楠は使わないだろう。
 そして、その男プリーストはどうやら結構暴走タイプのようだ。
 先走って前を歩き被弾してはそれを前衛が助けると言うような狩りの仕方とか。
 なんだかそんなのが容易に想像出来る。マゾなのかな、と海月は思った。
 支援の腕がいいに越した事は無い。素直な華楠が言うのだから間違いは無い筈だ。
『お互い無理しないようにしようね』
『そうね、またデスペナだけは勘弁願いたいわ』
『じゃあ、また明日』
『うん、また明日』
 定刻連絡終了。
 耳打ちなので手を振る訳にもいかず、海月は頭の中で手を振るのを想像してみた。
 なんだか一人遊びみたいで空しくなった。
 耳打ちは便利だけれど、終わった後は現実に引き戻され独りなのだと実感する。
 狭い部屋の中。特に何も無い部屋でする事だって特に無い。
 武器の手入れは鍛冶屋でして貰って来たし、食事の準備なんか冷蔵庫の無い家には無縁だ。
 風呂にでも入って何か食べに行こう。
 そう決めて、海月はだらしなく衣服を床へと脱ぎ散らかした。


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