廃プリとAXの昔話。


 瑠玖の言った通り、彼がタバコを吸い終わる頃には傷口は乾いて居た。
 彼が言うには生傷のまま放っておいた傷にヒールをすると痕が残るらしく、
 それが彼の美学に反すると言うのでこういった処置をしてくれたと言う。
 口が悪くともやっぱり大切な幼馴染。優しいのだ。
 ヒールをかけて貰うと綺麗さっぱりと傷は消え癒えた。
 当然痛みも無くなった。嬉しくて腕を振り回して見せる。
「お前・・・、わかったからパンツいっちょで暴れとらんで服を着ろ」
 言葉に笑いを含ませながら言う瑠玖に、はたと自分の姿を見て照れ笑いする海月だった。
 少しだけ水分を吸い込んで濡れていた下着も、カラカラに乾いていたので
 気にする事なくアサシンの正装を身に纏った。
 所々爪痕か、裂けて居る箇所もあるがきちんと縫ってしまえばわからないし、
 家に戻れば代えもある。アサシンギルドに頼めば新しいモノだって支給して貰えるのだ。
 下を履き、上着を持ち上げた所でざしゃっと皮袋が地面に落ちた。
 今日の仕事の報酬である。
 泉に脚を浸したまま寝そべっていた瑠玖が、その音に反応して海月の方へ視線を向けた。
「なんやそれ?」
「あぁ、何て言うの?報酬?」
 上着に袖を通しながら拾い上げて腰にぶら下げる。
 当然の事ながら『仕事』なのだからそれに見合った『報酬』がある訳で。
 身体を張り、自ら危険の中へ飛び込むのだから無償ではやって行けない。
 『仕事』の内容や任務の内容により報酬額が異なるが、それでもかなりの額は貰える。
 しかし、海月自身この報酬が一体何処から支払われて居るのかは知らなかった。
「ほーん。まぁ、お仕事やからそんなんもあるわな」
 少しだけ関心したように言った後、瑠玖はまた空を見上げた。
 やはり、瑠玖はそれ以上は聞いて来ようとはしなかった。
 海月+アサシンギルド=仕事。
 それで瑠玖の中では解決していて、それ以上の情報は多分必要ないのだろう。
 知らなくていいと思っているのか、知りたくもないと思っているのか。
 どちらかはわからないけれど。
「あのさ・・・瑠玖」
「んー?」
「マスターに、嘘、付いちゃってごめんね」
 海月はずっと心の中でもやもやと抱えていた事をやっと吐き出した。
 昔から虚勢を張り、小さな嘘を付いて他人に自分を誤魔化してはよく瑠玖に叱られていた。
 強がって我慢して、その場ではいいけれど後から気付いて後悔するのは自分なのだと。
 ようやくそれが身について、うまくやって来れていた筈だったのに。
 海月は心の中で自分を責める事しか出来なかった。
「しゃーないってさっき言うたやんけ」
「え?]
 聞き返す海月に、瑠玖は起き上がって身体を向ける。
「マスターやギルメン達にアサシンギルドで仕事して来たんです、なんて言うてみろ。
 仕事?どんな?大変?なーんて質問攻めに合うで、お前」
 大きな身振り手振りでギルドメンバー達の真似をしながら話す瑠玖。
 海月はそれをぽかんとして見ていた。
 瑠玖はちゃんと分っていたのだ。幼馴染の心中を。
 二人が所属するギルドには、勿論他にもアサシンは居る。
 彼らもまたアサシンギルドに所属し、海月と同様に誰かとペアを組み『仕事』をこなしている筈だ。
 けれど、それを口にした事は一切無いし、多分誰も知らない。
 海月でさえ聞いた事が無かったし、アサシンギルドで顔を合わす事も無かった。
 アサシンとはそれでいいのだ。裏の顔は誰にも知られないままでいい。
「ソロ狩りやなくて、仕事で負った怪我なんやろ?それやったらちゃんと言えんでもしゃーないやん」
 だから隠してもいいんだと、瑠玖は言った。
 マスターやギルドメンバーは海月の仕事の事を知らない。
 けれど、瑠玖だけは少し知ってしまった。
 だから一緒になって嘘をついてくれると言うのだ。
 こんな頼もしい奴が一体何処に居ると言うのだろうか。
 海月は一瞬息が詰まり、胸の奥が苦しくなるのを感じた。次いで鼻の奥がつんとして視界が滲む。
 やばい、泣いてしまう。
 そう思って慌てて下を向いた。そのまま、頭を瑠玖の肩口に乗せる。
「なんや、甘えて」
 笑いながら言って軽く海月の頭を撫でる瑠玖。
 どうにもこうにも涙が出そうでぎゅっと目を瞑って我慢した。
 自分の幼馴染はどうしてこんなにも優しいのだろうか。
「ありがとう、瑠玖」
 声が震えてしまわないように。海月はゆっくりと静かに、声を出した。



 二人で他愛も無い話をしながらオアシスでまったりしていると。
 心配したような声色でマスター、木ノ葉からギルドチャットが飛んできた。
『瑠玖ー・・・海月ちゃーん・・・大丈夫ー?』
 二人は顔を見合わせてはっとする。
 そういえば、たまり場を出てくる時ちょっと険悪なムードを残して来たのだった。
 二人を心配そうに見ていた木ノ葉とギルドメンバー達の顔が脳裏に浮かぶ。
 木ノ葉以外の声が無い所を見ると、みんな様子を窺っているのだろうか。
 そういえば、清算もいらないと蹴って来たなぁと瑠玖は頭を掻く。
 うーん、とひとつ首を捻った瑠玖は泉からやっと脚を上げると乱暴に水滴を振り払い
 まだ濡れた肌そのままにズボンを下ろすと、無理矢理にブーツに脚を突っ込んだ。
「心配かけとるっぽいから戻るか」
「そうだね」
 瑠玖に習って海月も腰を上げる。
『大丈夫でーっす。今戻りますー』
 瑠玖がギルドチャットに返事を返すと次々に安堵した溜息のようなモノが聞こえた。
 やはりギルドメンバー達はみんな様子を窺っていたらしくて、詰めていた息を一斉に吐き出した、と言った感じだった。
 瑠玖と海月はそれを聞いて、顔を見合わせ苦笑する。
「謝った方がいいかな?」
「どうやろ?」
 歩き出しながらの相談。
 多分、ギルドメンバー達はいつも通りの雰囲気に戻った二人を見ればもうそれで十分だとは思うのだが。
 口は悪くふざけているようで、根はクソ真面目な瑠玖と、素直で心配症の海月だ。
 相談の結果、『戻ったら謝ろう』と言う方向で話が落ち着いた。
 出来るだけ急いで戻る為、瑠玖は自分と海月に速度増加をかけ、近道を通って走った。
 たまり場に戻るとざっとみんなの視線が二人に集まった。
 一瞬たじろいだ二人だったが、そこはぐっと堪えて。
「先程は、醜態晒してすんませんでした」
 瑠玖が頭を下げる。
「ごめんなさい」
 海月も頭を下げる。
 それを見て一瞬固まったメンバー達。
 木ノ葉だけが安心し切った顔をして見守っている。
「ら、らしくねぇよ瑠玖。頭上げろよ」
「そうよ、別に謝る事もないしねぇ」
「海月を殴ったとかだったら話別だけどさ。なんか怪我治ってるしな?」
「いや、海月が瑠玖を殴る事はあっても逆はねぇだろ」
「だなー、瑠玖は海月可愛がってるもんな」
「なんだかんだ言って世話焼いてるわよね」
「年下だし、可愛いんじゃねぇの?」
「年下って言うの抜きにしても、海月ちゃんは可愛いわよー」
 なんだか、話がずれて行く。
 頭を下げながら海月はそっと瑠玖の方へ向いてみた。
 ふるふると肩を震わせ、今にも怒鳴り出しそうだった。
 海月の方は別に可愛い可愛いと連呼される事に対しては何も感じない。
 慣れっこだった。
 気になるのは年下と言うフレーズ。
 確かに瑠玖とは2歳、年が離れている。
 だから面倒を見てくれるのかな、とか。仲良くしてくれるのかな、とか。だから優しくしてくれるのかな、とか。
 考えるとちょっと悲しくなって胸の奥がきゅうと痛くなるのだ。
 今回はそれに加えて少し息が詰まった。さっきもあった感覚だ。
 なんだろうかと考えたが良く分からなくて、もうちょっと考えようかと思ったけれど胸が苦しいので考えられなかった。
 瑠玖を見ているのがちょっと辛かったから、見るのをやめた。
「とにかく頭を上げなよ?二人共。喧嘩をしていたんじゃなくて何よりだよ?」
 にこやかに木ノ葉が告げる。
 ふぅっと瑠玖が息を吐く音が聞こえた。
 海月も気付いたら溜息をついていた。
 顔を上げるとギルドメンバーの笑顔。
 それを見て、瑠玖も海月も笑顔になってたまり場の輪の中に入って腰を下ろした。
「あ、瑠玖。はい、これ。あなたの分」
「ほぇ?」
 不意を突かれた為か間抜けな返事を返した瑠玖に周りが笑う。
 近くの奴を一人捕まえてごついてから、瑠玖は差し出された皮袋を受け取った。
 ジャラっと小銭の音。
 なんだか分らないと言った顔をしている瑠玖に、皮袋を差し出したアルケミストは笑っている。
「え?何やのこれ」
「さっきの清算分よ。あなたの事だから、あとからよこせなんて言われないように分けておいたの」
 うふふ、と口元に手を当てて笑うアルケミスト。
 それを見て、先程一緒に狩りに出かけていたメンバーも笑い出す。
「ちょお待てや。なんかそれやと、俺守銭奴みたいやんけ」
「あら、違ったかしら?」
「お前なぁ・・・」
 まぁ、貰えるモノは貰っておくと瑠玖は皮袋を法衣の内側に仕舞い込んだ。
 それを見てさらに笑うメンバー。
 「笑うなや!」と瑠玖は一蹴するが、その効き目は無いようだ。
 全く、と独りごちて身体の後方に手を付いて支えると、またタバコを取り出した。
 それを見た木ノ葉が「瑠玖」と強く名前を呼び咎める。
 瑠玖は首を竦め、「すいません」と駄洒落とも取れる台詞を吐いてタバコを仕舞う。
 ギルド内で瑠玖がタバコを吸うのを咎められるのは木ノ葉だけだった。
 それを羨ましく思いつつ、海月は瑠玖に身体を向ける。
「あのさ、瑠玖」
「んー?」
「俺宿題出されちゃってさ」
「宿題?」
 何処からか、は言わなくても瑠玖は理解してくれたようだった。
 瑠玖も体勢を立て直して海月に身体を向けてくれる。
 ギルドメンバー達もそれぞれに会話をしていて、二人の話もそれに紛れて聞こえてはいないだろう。
「Lv80台にして来いって」
「ほぅ、80かぁ。悪くないなぁ」
 今の瑠玖のレベルは77。海月より1つ上だ。
 そして、海月の狩りの相方とはこの瑠玖だったりする。
 瑠玖は殴り型のプリースト。自分で支援をしながらモンスターの攻撃も避けつつ殴るタイプだ。
 海月はアサシンだ。回避力は数ある職業の中、NO.1。二刀型で両手に短剣を持ち攻撃をする為、与えるダメージも大きい。
 この二人の相性はとても良く、二人は1次職の頃から一緒に狩場を回っている。
 勿論、ずっと二人で・・・と言う訳では無いが。
「明日辺り、崑崙とか行ってみるか」
「いいね崑崙。お金にもなるし」
 先程の精算金の遣り取りの事を思い出して海月は吹き出した。
 それを見て瑠玖は一瞬顔を赤らめてから、慌てた振りをする。
 先程の事は瑠玖自身にとってはちょっと恥ずかしい事だったらしい。
「お前、そう言うつもりで言ったん違うぞ?」
「分ってるよ」
 突っ込みを入れる感じで叩いて来ようとする手を腕で受け止めながら
 まだ笑いを含んだ声で海月は返答した。
 瑠玖は今日のパーティ狩りで。海月は今日の任務で。
 お互い疲れているだろうから、と言う理由で行くのは明日と言う約束になった。
 じゃれている二人をのほほんと見詰めながら一人「平和だなぁ」と木ノ葉は呟くのだった。


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