廃プリとAXのお話。



 家に戻る頃には息絶え絶え。俺もなんだか熱が出そうだった。
 あいつめ、最後の方は楽しんでいやがった。俺に支援なんかかけたりして。
 まぁ・・・たまにはあんなのもいいか。
 『たまには俺以外の奴と狩るのも楽しいやろ』昨日、海月に言った言葉が頭をよぎる。
 確かにな・・・楽しかった、な。
 だが今はそれよりも何よりも。とにかく身体が重たい。寝たい。横になりたい。
「ただいま」
 ドアを開けベッドに居るであろう海月に声をかけた。
 あれ?
 視線の先のベッドに、海月の姿は無く。頭に乗せて居た筈の袋の中身が溶け、水となってぽつんと枕元に置いてあった。
 捲られた布団。シーツに触れるとまだ少し暖かい。
 部屋の中を見渡しても姿は無く、バスルームを覗いても姿は無く。
「入れ違いか」
 チェインを置き、グローブを外しベッドに腰掛けた。
 今朝方着せた筈の衣服は床に放られているので、あの黒い正装で出掛けたのだろうと思う。
 熱は引いたのだろうか。気にはなったが、自分の体調が分らない程子供ではない。
 そのうち帰って来るだろう。
「あぁ・・・もうあかん」
 襲い来る眠気に勝てず肩からベッドへ落ちるように寝転がると、俺はそのまま意識を手放した。



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 ふと気が付くと部屋の中は蝋燭の光で淡く照らされていた。
 どれくらい寝たのか。蝋燭が灯っていると言う事はもう夕刻を過ぎたのだろう。
 視線を動かすとベッドサイドに椅子を持って来て、背もたれを抱くように座っていた海月がじぃっと俺を見詰めていた。
 目が合うとふっと笑顔になる。
「やっと起きた」
「あー・・・おはよう」
「おはよう」
 声を出して海月が笑うので何事かと思ったら。
 いつも頭の上を守ってくれているたぬきさんを、だっこして眠っていたらしい。
 なんと言う事だ。そっとたぬきさんを枕元に置く。
「たぬき、好きだよね。瑠玖」
「うん、よぅ分らんけど昔っから好きやねん」
 などと言ってお互いに笑った。
 あ、そういえば。
 俺はやっと思い出して海月の額に手をやる。
 きょとんとする海月だったが、大丈夫そうだ。熱くない。
「熱、下がったみたいやな」
「うん、ちゃんと大人しくしてたし。散歩程度だけど運動もして来たし」
「そうやな。俺が帰って来た時居らんかったけど、何処行ってたん?」
「・・・ギルド」
 ギルド。
 海月が言うギルドはアサシンギルドの事だ。
 沢山の冒険者が集うギルドに所属している全てのアサシンも、このアサシンギルドから依頼を受け仕事をして暮らしている。
 アサシンとは暗殺者と言う意味だ。文字通りの仕事を主とする。
 情報収集などもあるらしいが、それはレベルの低いアサシンに回される仕事だと言う。
 そして、海月や華楠のようなアサシンクロスはアサシンではこなす事の出来ない難しい『仕事』を請け負うのだろう。
 何をして来たか、は聞かない事にしている。
 海月も話そうとはしない。
 ただ俺に伝えるのは「ギルドへ行って来た」と言う事実のみ。
 それを俺は黙って受け入れる。それでいいんだ。
 教会とアサシンギルドは裏で繋がっていると噂で聞いた事がある。
 詳しい事は良く分からないし知りたいとも思わないが。海月は知っているのかも知れないけれど。
「そうか、おつかれさん」
「いや、今日は仕事じゃなくて。聞きに行って来たんだ。毒瓶の事」
「あぁ、そうなんか」
 海月自身も、毒瓶の事が気にかかっていたらしい。
 そりゃそうだ。自分が覚えていない間にあんな事をやらかしたのだから。
 無意識にため息が漏れた。安堵のため息と言うやつだ。
 アサシンギルド内で海月が『仕事』をする事に対して、俺自身ちょっとした不安があったのかもしれない。
「なんかね、副作用?出るんだって。慣れてないと」
「副作用?」
「うん」
 俺は身を起こして、海月の視線に合わせた。
 ここからは海月の説明になる。
 転職したてのアサシンクロスは毒瓶を飲めるようになって、やっと一人前と言えるのだと言う。
 しかし、いくら毒に強いアサシンクロスだとは言え、劇薬と呼ばれる程の毒の純度に耐え抜くには
 相当の体力、精神力、忍耐力を必要とし1度や2度の服用では、死には至らないまでも
 身体は慣れる事も耐える事も出来ず、製造材料からの何かしらの副作用が出てしまうと言う訳だ。
 その副作用にはいくつかの実例があり。
 ・全身に襲い掛かる激痛。
 ・繰り返しやってくる極度の悪寒と火照り。
 ・重度の風邪に似た症状。
 ・目の色が血のような紅色に染まり、殺戮願望が収まらない状態。
 ・催淫症状。
 海月はこの5番目、催淫症状と3番目の風邪に似た症状が少し出てしまったと言う事になる。
 それも、1度に1瓶ではなく4、5本飲んだと言うのだから強く出てしまったのだろう。
 飲めば攻撃力4倍になる、と言う薬だ。そんな副作用が無い方がおかしい。
「コンスタントに飲み続けていれば、その内軽い症状で済むようになるらしいんだけど」
「そんな淡々と飲める程、安いモンでもないしなぁ」
「うん・・・」
 仮にまた服用したとして、同じ副作用が出るとは限らない。
 催淫症状が出たなら俺がまた抱いてやればいい話だが、別の症状が出てしまった場合。
 特に1番と4番は、出来れば避けたい所だった。
 副作用の激痛にはヒールは効かないだろうし、アサシンクロスの殺戮願望は
 プリーストの俺には到底止められる気が全く持ってしなかった。
 現に俺は、海月の『暗殺者』としての顔を知らないのだ。
「まぁ、今度また飲むとしたら・・・もっとレベル上がってからのがいいん違う?」
「そうだね。・・・まだ2個あるんだけど」
 と、海月は道具袋から毒瓶をコロコロと取り出して見せる。
 手の平サイズの真っ赤な小瓶。
 見た目は可愛いその小瓶の中に、一体どんな色をした液体が入っているのかと
 一瞬興味をそそられたが、頭の中のもう一人の俺が『それは猛毒だぞ』と歯止めをかけた。
 俺が飲んだら死んでしまう。
「一体何個持っててん、蓮の奴・・・」
「じゃらじゃら持ってたよ」
 言って、海月は苦笑する。
 蓮の知り合いと言うアサシンクロスも随分と太っ腹な奴だ。
 もしかしたら、自分で製造出来るアサシンクロスなのかもしれない。
 いや、それにしたって太っ腹だ。
 製造するのもかなりの技術を要する筈だから。
「これって別に賞味期限とかないやんな?」
「と、思うけど」
「忘れへんうちに倉庫突っ込んどけ。持っとったらうっかりなんて有り得るから」
「りょーかい」
 敬礼のポーズを取ると毒瓶をしっかり道具袋にしまう。
 袋の中でガラス同士の擦れ合う音がした。
「あ、そうそう」
「ん?」
「瑠玖が寝てる間にギルドチャットで、みんなからご飯の誘いがあったんだ」
「飯の誘い?」
 そういえば、昨日の夜から何も食べていないのを思い出した。
 ぐぅぅぅといいタイミングで腹の虫が鳴く。
 それを聞いてか軽く声をあげ海月が笑う。
「腹減ってんねん、笑うなや」
「ごめんごめん」
 俺もペコペコ、と付け加えて海月は立ち上がる。
 ベッドから脚を下ろし、法衣を正しながら俺も立ち上がった。
 少し皺になっているが・・・まぁ仕方ない。
 夜だし、目立たないだろう。
「で?何の誘いなん?」
「なんか絢音のホムが進化したとかで、そのお祝いだってさ」
「おお、進化したんや。とろりー」
 とろり、とは絢音嬢のホムンクルスの名前である。
 その種類はバニルミルト。
 絢音嬢はホムンクルスを扱う者=アルケミストである。
 ここ、首都はプロンテラの十字街で露店をしている事が多く、余り狩りに出掛けるイメージがなかったので
 とろりが進化したと言う事がなんだか自分の事のように嬉しかった。
「瑠玖が起きたら行くって言ってあるから、もうみんな集まってるんじゃないかな?」
「そんなら、早ぅ行ってやらんとな」
 サイフと鍵を持って、後は窓の戸締り確認。
 武器は要らないし、祝いの品は途中カプラ倉庫へ寄って見繕えばいいか。
 ・・・あの絢音嬢に一体何をプレゼントしたら良いかわからんが。
 唐突に海月が肩につかまり耳に口唇を寄せてきた。
「?」
「あのね。俺1個だけ思い出したんだ」
 そう言って間を空ける。
 何かと思って待っていると。

 昨日の最中、瑠玖が「愛してるよ」って言ってくれたの、思い出したよ。

 そう囁いて赤い顔してにっこりと笑って見せる。
 呆然と立ち尽くす俺の目の前で、「やっぱ照れるな」なんて呟いて、
 頭を掻きながらドアへ向かって歩いて行った。
 昨日の事が最初から最後まで鮮明に頭の中を駆け巡り、再生したい部分でぴったりと止まった。

 俺も、愛してる、瑠玖。

 俺達はお互いに滅多な事が無い限り、好きだの愛してるだの言わない。
 言わなくてもお互い通じていると思っているからだ。・・・と、俺は勝手に思っている訳だが。
 今回は熱に浮かされていたとは言え、相当滅多な事だったらしい。
 海月に言われるまで、自分がそう言っていた事すら分らなかったし。
 海月に言われるまで、海月がそう言っていた事すら分らなかったし。
 ちょっとモンダイアリな出来事だったけど、良しとするかな。
「・・・瑠玖?置いてくよ」
「あぁ、悪い悪い」
 きっと間抜けな顔をしていたに違いない。鼻の下が伸びた間抜けな顔。
 ぴしゃりと自分の顔を叩いて一喝して、ドアの向こうから呼んでいる海月の元へと向かった。



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 絢音嬢への祝いの品はバニルミルトの帽子にしてみた。
 もう既に持っているかもしれないだとか、誰か他の奴が持って来て居て被っているかもしれないとか思ったりもしたのだが、
 確かこれは露店に出回って居た数が極端に少なく、俺は偶然にも殴ったポリンから入手したのだった。
 頼む・・・被らないでくれ・・・。
 夜の露店街。食べ物露店の並び。
 指定された店の前のテーブルの一角を見知った連中が陣取って居た。
「あ、来た来た」
「マスター、おつかれーっす」
「こんばんわーマスター」
「遅ぇよ、瑠玖さんー」
 次々に挨拶やら野次が飛ぶ。
 どうやら『お祝い』と称した『宴会』が開始されてから、もう大分時間が経っているようで
 呑める奴らはいい具合に酔いが回って来て居るようだ。
 その輪の中心に件の絢音嬢とその左隣に蓮、華楠と並んで座っていた。
 蓮がこちらに向かってひらひらと手を振っている。
「おらっお前らマスターと海月さんが来たんだ!席空けねぇか」
 完全に酔っ払っているローグのフェイが椅子に片脚を上げ、絢音嬢の右隣の奴らをしっしと追っ払う。
 追っ払われた奴らも酔っているらしく、そうだな、マスターどうぞーなどと口にしながら席を立つ。
 立って何処へ行くんだ、お前らは。と思いながらも空いた席に腰掛ける。
「こんばんは、マスター、海月さん」
 絢音嬢がにっこりと微笑みながら頭を下げた。
 絢音嬢はまだ20歳を過ぎたばかりで酒に慣れて居ないので、酒は飲まずノンアルコールのドリンクを飲んでいた。
「絢音、ホム進化おめでとー」
 海月が俺を乗り越えて、絢音嬢の手元に何枚かカードを差し出した。
 ソルジャースケルトンカード。
 クリティカルがアップする効果のあるカードだ。
「アサシン時代に使おうと思ってたんだけど、結局使わないまんまで。絢音なら使えるんじゃないかなと思って」
 確かに製造型のアルケミストはLUKが高い。STRが低いとしてもクリティカルでカバー出来るかもしれない。
 海月、良く見てるなぁ。さすが、アサシンと言った所か。洞察力が鋭い。
 自分の持って来たモノを思い出し、うーむと頭の中で唸る。安直過ぎただろうか・・・。
「わわ、いいんですか?こんな高価なの」
「いいよいいよ。お祝いだもん。受け取って貰わないと」
「ありがとうございます」
 嬉しそうにカードを手の中に収めると、足元に置いてあるらしいカートの中へと丁寧に入れた。
 ちらり、と中を確認する。ぬいぐるみや青い箱やらカード帳。いっぱいにモノが詰まってはいたが。
 よし。バニルミルトは入ってない。
 内心ガッツポーズを繰り出して、俺は絢音嬢へ身を向けた。
「絢音、俺からも」
「はい!」
 ドキドキしながら、絢音嬢の目の前にバニルミルトの帽子を差し出した。
 あれ、反応が無い。
 ま、まさか。もう既に持っていると言うオチか?そうなのか!
 恐る恐る絢音嬢の顔を窺って見る。
 驚いた様子で目を大きく見開き、俺の手にするバニルミルトに釘付けになっていた。
「・・・絢音?」
「あ、ごめんなさい。こんなの見たことなくって」
 よかった、絢音嬢はこの存在すら知らなかったようだ。
 いつも露店はしているが、売る側が忙し過ぎて他の店を見て回る余裕が無いのだろうか。
 膝の上にぽんと置いてやると、抱き上げてぎゅうと抱き締めた。
「進化する前のとろりだ」
 嬉しそうに呟く。
 喜んで貰えて何よりである。あの時落としてくれたポリンに感謝せねば。
 絢音嬢はヒュッケの猫耳を外すとさっそく頭に乗せて見せてくれた。
 その姿に周りがわっと湧く。
「すげー、進化前のとろりが頭に乗ってる」
「それと進化した後のとろり連れて歩いてたら最強じゃね?」
「絢音可愛いー」
「いいなぁ、それ私も欲しかったー」
「それって効果なんだっけ?」
 次々声が飛ぶ。
 そんな中、絢音は本当に嬉しそうな顔をして俺に頭を下げた。
「ありがとうございます、マスター。これで前のとろりの事も忘れないでいられます」
「おう、可愛がったってくれ」
「はい」
 安直かと思ったが、相当喜んでくれたようで。
 よかったよかったと思っていると、隣で小さく笑う声。
 海月だった。
「負けたなぁ、プレゼント大作戦。俺もいい線行ったと思ったのに」
「またそんなん一人で開催してたんか」
「あんなの出されたら完敗だよなぁ」
 ずるい、とか言って腕をつねられる。
 まぁ、軽くなので全く痛く無い。
「でも、喜んで貰えて良かったね」
「せやな」
 絢音嬢を見ると、何か蓮に話かけられ頭の上のバニルミルトを手渡して居た。
 受け取った蓮は絢音嬢の目の前で、上から下から押し潰す。
 きゃーと悲鳴が上がり、予想通り思い切り蓮は華楠に殴られた。
 周りからは笑いが起こる。なんだかんだでいつものギルドの雰囲気になる。
「マスター、サブマスターも来てメンバー揃った事だし」
 フェイがまた椅子の上へ立ち上がった。
 手にはグラス。並々と酒が注がれている。
 それを見て周りの連中も次々にグラスを手に取った。
 俺も海月も酒のグラスを持たされる。
 たまには、いいかな。
「それではみなさん!ギルドメンバー絢音嬢のホムンクルス、とろりの進化を祝いましてー」

 『乾杯!!』

 カシャーンともガシャーンともつかない複数のグラスのぶつかる音。
 それと共に本格的に宴が開始された。
 こうして更けて行く夜も、たまには悪くないなと思いながら久し振りの酒を楽しむ俺だった。




終。







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 やっぱりねぇ、こうなっちゃいましたwwwwwwwwwww
 だめですね。BLは書きなれてるせいか、エロが無いといけないような気になってしまって・・・。
 でもさー初めてのジャンルで初めてのカップリングな訳でさー。
 まずは二人がどんな関係かをお知らせしなきゃいけない筈だったのー。
 そうなる筈だったのにー。のにーのにーのにー・・・。
 毒瓶のネタが降臨して来てしまってからはもう止まりませんでした。
 してやっぱり攻めがヘタレになってしまうと言う魔法。
 これどうにかなりませんかね(知らんがな
 設定では「多分S」って設定の筈なんだけどな。瑠玖。
 蓮には思いっ切りSっぷりを発揮してたけども。
 違うんだよー相手が違うんだよー!おーん;;

 なんだか長くなってしまって、SSなのか長編なのか狭間を彷徨う感じですが。
 少しでもニヤニヤして頂ければ幸いです(゚∀゚)
 一番愛着のあるカップリングなので、こいつらの話が上がらなくても
 別の話に出て来たりしそうですwwwうふふ。

 20100112/まつもとゆきる。



  モドル。     






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