廃プリとAXのお話。
レックスエーテルナ!!
ダメージが2倍になる呪文。
それを蓮にかけ、俺は渾身の力を込めてチェインをその身体へと叩き込んだ。
「いでっ痛いってば、瑠玖さん!」
「痛くしてんねん、当たり前やろが」
ふらふらになって倒れそうになる所を、わざとヒールで回復してやり
再びそれを繰り返す。勿論俺自身は自らフル支援だ。
蓮は多少VITがある。だから多少耐える。だから俺も思い切り殴れると言う訳だ。
腕で身体をかばいつつ、何か呪文を紡ごうとしたがそれは無駄な行為。
レックスデビーナでしっかり封じてある。
耳打ちでしこたま罵声を浴びせた後、ここ宿屋にあるPvルームへ呼び出した。
なんか知らんが蓮も俺を探していたらしく、ほいほいとやって来た。
有無を言わさず後ろ襟を引っつかみ、受付に二人分の料金を支払い。
誰も居ないPvルームへ引きずり込み、今こうしてお仕置きの真っ最中と言う訳だ。
「痛い痛い」と声を上げるプリーストに構わず殴り続けていると。
「まさか、俺もこんな事に、なるとはっ思わなっ痛いっ!」
「あん?」
何か言い訳があるのか、痛い以外の言葉を発し始めた。
体力がやばそうだったので、とりあえずヒールをかけ。
チェインの柄の部分で頬をぺちぺちと叩く。
「なんや、言い訳したいみたいやな?」
「言い訳っていうか・・・言い訳です、はい」
上目使いで「お願い聞いて?」と言わんばかりに懇願の表情を作って見せる。
海月なら可愛いが・・・こいつにされるとかなり複雑な気分だ。
見ていられなくて、手の平で思い切り顔を押し返した。
「わかったわかった、聞いたるからその顔やめろ。キモイ」
「ありがとう、瑠玖さん!」
抱き付いて来ようとするので、思わずまたチェインでぶちのめしてしまった。
打ち所が悪かったのか患部を押さえて暫く蹲る蓮。
とりあえず謝罪の言葉をかけてヒールを2回程かけてやった。
・・・と言うか、何で俺が謝らねばならん。
「で?その言い訳は?」
「はいー。知り合いに攻城戦に出てるアサシンクロスが居るんだけど」
「そいつに貰ったんか」
「はいー」と間延びした返事をしながら、蓮は頷いた。
「華楠が転職したののお祝いとかで結構な数を貰ってしまって」
「ほぅ」
「そいつが言うには、アサクロになったら一度は経験しないと損だって言うので」
「ふーん」
「海月も飲んだ事なさそうだったから、どうせなら一緒にどうかなーと」
「それで、なんでボス狩りになんねん」
言ってやると蓮はギクっとした顔をしてこっちを見た。
ふん。海月が俺に喋らないとでも思ったか、馬鹿野郎め。
「いや、あの・・・折角攻撃力4倍になるならMVP行けるんじゃないかなーなんて・・・」
「軽ぅく考えた訳や」
「・・・はい」
片手は腰に、もう片方はチェインを持って肩口でトントン。
それで十分威嚇になったらしく、蓮は目の前で身を硬くし萎縮した。
だがそれも一瞬で、顔を上げ次の言葉を必死に紡いでみせる。
「やっ、でもMVP取ったんすよ?海月!」
「知っとるわ。箱貰ったし」
そう、あの紫の箱こそが海月がMVPを取った証拠。
やっと辻褄が合った。
「で?結局何本飲ませたん」
「あー・・・4、5本です」
「そうやろなぁ、それくらい飲まな狩れへんやろなぁ?」
ずいっと蓮に詰め寄る。
ざっと蓮が後ずさる。
「分ってんのか?お前はまだええとしても、華楠も海月もまだ70台やねんぞ」
「はい・・・後から気付きました」
「後からじゃ遅いねん!このどあほがっ」
チェインが再び蓮の身体にヒットする。
が、決まったのは最初の一撃のみで二撃目は光の壁に弾き返された。
レックスデビーナの効果が切れた蓮が、キリエエレイソンを唱えたのだ。
身を守る光の盾。だが、これはあの呪文で掻き消す事が出来る。
アスムプティオ!!
蓮の身体が光のヴェールに包まれる。
ダメージが半減だが、殴れない訳ではない。
そこへすかさず、また蓮がキリエを唱えた。俺もアスムを唱える。
・・・何故だかわからないが互いの魔法力が尽きかけるまでそれは続いた。
「・・・何してんねん、俺ら」
「さぁ」
魔法力=精神力なので流石に立って居られなくなり、お互いマグニフィカートを唱えると
その場に腰を下ろした。ジャランとチェインが床に落ちる。
「そいやあ」
少し大きく呼吸をしていると、話の切欠を作ったのは蓮だった。
ポケットからパイプタバコを取り出して火をつけ紫煙を燻らせる。
俺もタバコを取り出して火をつけた。
「海月、ちゃんと家に帰れました?」
「あぁ、帰って来たで?」
「華楠もそれなりに消耗してたんすけど、海月のがヤバくて送ってこうかって言ったら
一人で帰れるって言うんで一人で帰したんですけども」
確かに帰っては来たが、かなりヤバい状態だったなぁ。
よく一人で帰って来たと思う程、よろよろの状態だったのを思い出す。
「いくら毒に強いアサシンだからって、短時間に毒瓶何本も飲むのはだめっぽいっすねぇ」
「当たり前やんけ」
笑いながら言ってのける蓮の頭を拳でごついた。
「あーそれから」
「ん?」
「夜中、大変じゃなかったすか?」
ドキっとした。
昨日の事が頭の中を駆け巡る。
そして思い出したように、腰の辺りが重くなった。
そういえば俺、昨日あれから寝てないな・・・。
「・・・大変、と言うのは?」
「いやぁ、華楠体調崩して大変だったんすよ。今も寝込んでるんすけど。まぁ、体調が悪いってかあれは・・・うーん」
一人腕組みをして勝手に考え出す。
まさか、華楠も昨日の海月と同じ状態だったって言うんじゃないだろうな。
想像つかないぞ、あの子が蓮相手に・・・。
うん、全く想像つかん。
「まぁ、簡単に言ってしまえば、身体が火照って大変だったみたいで」
いやにさらりと言う奴だな。
何だ、俺はこれからこいつの情事でも聞かされるんだろうか。
思わず眉間に皺が寄る。
「そんな顔しなくても、俺何にもしてませんて。今までも何にもしてないのに、そんな時にヤっちゃったら殺されちゃう」
意外な言葉だった。
何にもしてないのか、こいつ。
女の子とっかえひっかえ遊びまくってて、手が早そうなのに。
華楠の事は昔からずっと好きだったと言うのは知っては居たが、結構大事にしてるんじゃないか。
俺の中で蓮の株が少しだけ上がった。ような気がした。
「でも・・・」
言葉を区切ると、変に間を空けにやりと笑ってみせる。
何だか嫌な予感がした。
何に対してだか分らなかったが、とてつもなく嫌な予感だった。
蓮は少し俺の方に身体を寄せると誰も居ないにも関わらず、口元に手を添え囁くように言った。
「瑠玖さんはヤっちゃったでしょ?」
「なっ!」
上半身を思い切り反らして逃げる。
何だ?今こいつは何を言った?
急いで蓮の言葉を反芻してみる。
どう考えても、どう捉えても、俺と海月の関係を知っている言葉にしか受け取れない。
確かに俺と海月は恋人である。だが、それを大っぴらに公言している訳ではない。
男同士であるから、周りにネチネチと何か言われるのが鬱陶しいのもあるが。
別にわざわざ公言する必要も無いと思っている。
『仲の良い幼馴染』そう思われていれば十分だったのだ。
なのに・・・。
「そんな怖い目で見ないでー」
きゃー、とか言いながら蓮は自分の顔を手で隠した。
かと思うと、その指の隙間からこちらを見て笑っている。
「俺の観察眼、侮って貰っちゃ困るなぁ」
恋愛関係に限りだけどね、なんて続けてカラカラと笑って見せる。
こいつとの付き合いは長い。
ギルドを作る前から、転生する前からの付き合いだ。
一体いつ頃から気付いていたのやら。
参ったな・・・。
ため息が出た。
「いつからや」
「んー・・・忘れたけど、ギルド作った時はもうそうだったよね」
あー・・・完全に負けた。
ギルドを作った時期が心も身体も繋がった時期なのだ。
頭を抱えるしかなかった。
「そんな落ち込む事じゃないでしょ」
「なんかお前に見透かされてたんかと思うと凹むわ」
「でも、別に隠して来たって訳じゃないっしょ?」
「んー・・・まぁな。敢えて言わんかっただけでな」
「ギルドメンバー知ったら驚くだろうなぁ」
蓮は斜め上を見上げて目をキラキラさせる。
無意識に手が足元のチェインに伸びた。
それに気付いたのか、びくっと身体を震わせ振りかざそうとする俺の手を押さえる。
「冗談だってば」
「お前の冗談は冗談に聞こえへん」
全く。真面目なのか不真面目なのか。いつも通り掴み所の無い奴だ。
そこがこいつのいい所でもあるのだが。
図に乗るので誉めてやらない事にする。
言い訳も聞いたし、お仕置きも気が済んだので。
チェインを掴み、帰ろうかと腰を上げた所で、法衣の裾を蓮に掴まれた。
「ねぇねぇ」
「なんや?」
「瑠玖さん、殴り方に腰が入って無かったんだけどさ。昨日そんなに凄かったの?」
「・・・お前なぁ」
そんな事答える馬鹿が居るか、このどあほーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!
重だるい腰に鞭打ちつつ、逃げ回る蓮をチェイン振りかざして俺も走り回るのだった。
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