廃プリとAXのお話。
夕食の準備をしながら海月を待っていた。
あの時間に出掛けて行って、今この時間だ。
ちょっと遅過ぎやしないだろうか。俺の心配のし過ぎだろうか。
楽しく狩りをして時間を忘れてしまっている、と言うのなら何も言う事はないが
何処かで危ない目に遭っていたりしていないだろうかと、先程から何度も何度も思考がそちらへ行ったり来たり。
料理の方もなかなか先へと進まない。
蓮の支援の腕を信頼していない訳ではないが、いつも自分が一緒に居る相手だ。
不安になって、心配になって当然だろう。と、思うのだが。
やはり心配のし過ぎなのだろうか。過保護、と言うやつなのだろうか。
甘やかして育てて来た覚えは無いが・・・だめだ。心配でこれ以上・・・。
ガタン!
ドアの向こうで大きな音。
何かが確かにドアにぶつかった音だ。
慌てて握り締めていた包丁を置き、ドアへ向かおうと振り向いたら
自らドアを開けて何かが転がり込んで来た。
「ただいまぁ」
「海月!」
玄関で膝を付いてよろけているのに肩を貸し、抱き起こす。
相当体力を消耗しているのか、足元がおぼつかない。
とりあえずベッドまで運んで、それから治療だ。
ベッドまで歩く間、何度も転びそうになる海月の身体を何度も抱え直しながら
注意深く傷がどのくらいあるのか目視してみた。
・・・傷は、殆どない。
こんなによろよろになる程の外傷と言っていい外傷はなかったのだ。
とりあえず、致命傷的なものが無い事に安堵はしたが体力の消耗具合が気になったので
ベッドには横たわらせた。息遣いも少し荒い。一体何をして来たんだ。
「海月、何があったん?一体何処行っててん」
「んと・・・、天津、だったかなぁ」
喋る言葉も息絶え絶え。語尾が変に延びているのが気にかかった。
あ、と何か思い出したように少し身を起こすと、道具袋をごそごそやり
何かを手に取り俺に向かって差し出した。
「これ、瑠玖に、おみやげー」
「?・・・紫の箱?」
受け取るとうっすらだが、何処か満足そうな笑みになる。
なんだ、一体何をして来たと言うんだ。
そうしている間にごほごほと咳き込み始めたので、水を飲まそうと立ち上がった。
だが、手首をがっしりと掴まれて歩き出す事が出来ない。
「海月・・・」
「やだよ、行かないでよぉ」
「水取りに行くだけやから」
「ホントにぃ?」
「ホントに」
と、やりとりをしてるとまた咳き込み出したので、その隙を突いて悪いと思ったが腕を払い
キッチンへ水を汲みに行き、宣言通りにきちんと戻って来た。
その俺の行動を見ていたのか、海月は嬉しそうに笑っている。
「ちゃんと、戻ってきたぁ」
「せやからそう言ったやんか。ほら、飲め」
背中に手を廻して抱き起こし、グラスを渡した。
やはり喉が渇いていたのだろう。海月はごくごくと一息も付かず全部飲み干した。
ふぅ、と大きめに一息付いたのを確認してグラスを受け取り、再び静かに横たえる。
今度はきちんと布団もかけてやった。疲れているんだろうから、今日はこのまま寝かせた方がいいだろう。
サイドボードに紫の箱とグラスを置いて、深い呼吸をする海月の顔を眺めた。
布団に顔を半分うずめた海月はじぃっと俺を見つめている。
「・・・楽しかったか?今日」
「うん、楽しかったよぉ」
口元は見えないが、目が細くなったので多分笑顔になっているのだろう。
うん、楽しかったのならばそれでいい。
「そうか、よかったな」
頭を撫でてやる。
すると不意に海月が、俺のその腕を取って引き寄せた。
俺はベッドサイドに腰掛けたまま、上半身だけ海月にのしかかる格好になる。
「ねぇ、瑠玖ぅ」
なんだろう・・・海月の声が先程までと少し違う。
なんかこう、甘ったるい。
口の中に一気に唾液が広がって、俺はそれを慌てて飲み下した。
ゴクリと喉が鳴る。
「なんかねぇ、身体が熱いんだぁ」
「身体?熱でもあるんか?」
そっと額に手を触れると、海月の身体が小さく跳ねた。
違う。熱い事は熱いがこれは・・・。
思わず海月の目を見てしまった。
やっぱり。涙目、とまでは行かないが若干潤んでいる。
これはー・・・。いや、しかし。何故こうなった。
「海月、お前、」
言うより先に襟首を掴まれ引き寄せられた。
口唇が重なる。
口唇を食むよりも先に急かすように滑り込んで来る舌先。
それが自分のそれに触れた瞬間、少しピリっとした。
例えるならば、細かい針が刺さるような。
そんな、少しだけ痺れるような感覚。
一体なんだろう。
浮かんだ疑問はすぐ掻き消えてしまった。
海月の舌使いによって。
別に久し振りのキス、と言う訳ではないがこんな風に海月から攻めて来るようなのはあんまり無い。
ちょっと動揺した。
「ふはっ」
口唇が離れる。
至近距離で海月が大きく呼吸をした。
その時、何か薬品めいた匂いが鼻をかすめた。
ハイスピードポーションだろうか、と余りその時は気に留めなかったのだが。
「・・・ねぇ、瑠玖」
「ん?」
「抱いて?」
「え・・・?」
この言葉。
先程の匂いと舌の感触。
そして、海月からの攻めのキス。
何かがおかしいと思った。だってこんな事は初めてなのだ。
海月から誘って来るなんて、海月から誘って来るなんて、海月から誘って来るなんて・・・。
「お願い。俺、身体あっつくて変になりそう」
「い、いや、待て海月。お前・・・。」
何か、何か言い訳をと、何故か言い訳を探して居るうちに
熱い海月の手に腕を取られされるがまま誘導される。
辿り着いた先は海月の身体の真ん中。熱が最も集まる部分。
そこに「ほら」ってそっと触れさせられた。
・・・もう、こんなに。
「もうね、こんななの。我慢出来ないよ。お願い、早く」
「海月・・・」
手が触れている場所をそっと撫でてみると、びくんと腰が跳ねた。
確かに、する前から海月がこんな風になるのは珍しい。
・・・馬鹿か俺は。
何言い訳とか考えてたんだ、俺は。
海月はただ、俺を求めているだけじゃないか。
俺がいつも海月を求めるのと何も変わりはしないじゃないか。
いつもの事、じゃないからって何を動揺してんだよ。
よし。
頭の中を整理して、改めて海月を見た。
不安そうな濡れた目で、俺を見上げていた。
海月の顔の横に肘を付き、距離を詰める。
「瑠玖・・・?」
「ごめんな、不安にさせて。海月にこんな風に誘われてちょっと動揺してん」
素直に告白して軽く口付けた。
海月の腕が背中に廻りきゅっと法衣を掴む。
「ちょっと押さえ効かんかもしらんけど、許してな?」
「・・・、うん」
「じゃ、いただきます」
「はい」
海月の返事は半分以上笑い声だった。
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