廃プリとAXのお話。
熱に浮かされると言うのはこう言う事。
カタンと何かが外壁にぶつかるような音がして、目が覚めた。
と言っても部屋の中は薄暗く、本当に目が覚めているのか自分の見ているものを疑う。
一度目を閉じ、再びゆっくり開いてみる。
やはり薄暗い。
身体をゆっくりと起こしながら、ぼぅっとする頭を手で押さえた感触でやっと夢の中ではないのだと思った。
どうやらもう夕刻らしい。窓から外を眺めてみると日が半分程沈み空が朱色に染まっていた。
確か・・・戻ってきた時はまだ昼過ぎだったはずだ。
昼だからと解散し、帰って来て昼食を摂ったはず。
あれから今まで眠ってしまっていたのか・・・。情けない。
いくら久し振りに臨時パーティに参加したからといってそこまで疲れてしまうとは。
確かに、今回のパーティは殴り型だと言っているのにも関わらず
半ば支援扱いをされ、前衛のロードナイトのお守り役だった。
海月とは違い被弾し放題なロードナイトにヒールやアスムをするばかりで、殆ど叩けなかったっけ・・・。
「はぁ、これやから臨時は・・・」
頭がぼぅっとするのも、多分青ポーションを飲みすぎたせいもあるのだろうな。
普段なら魔法力が尽きる事なんて殆ど無いのに。
失敗だったなぁ・・・どうして臨時に行こうなんて思ってしまったのか。
あ、そうか。海月が居なかったからだ。
今朝の事だった。
朝食を済ませてその片付けを海月がしながら、今日は何処へ狩りに出掛けようかと話して居た時だった。
「おはよーっす」
ゴンゴンとドアを叩く音と共にその声は響いた。
誰かと確認しなくても、その暢気な声色で誰だかわかってしまう。
うちのギルド内最高ののんびり屋、通称壁プリーストの蓮だ。
「蓮か・・・。」
「蓮だねぇ。どうしたんだろう、こんな早くに?」
火をつけたばかりのタバコを咥えたまま、ドアまで歩み寄る。
覗き窓から一応確認してみたが、やはり蓮だった。
珍しい事に隣には華楠の姿もあって、二人してドアが開くのを今か今かと待っているようだ。
二人で一体何の用だろう?結婚でもする気になったのだろうか?
そっとドアノブを廻す。
「あ、おはよーっす!」
「おはようございます、マスター。」
片方は馬鹿でかい声で、片方は礼儀正しく。
それぞれ挨拶の言葉を口にしながらも揃って頭を下げた。
つられて俺も頭を下げる。
「おぅ、おはよう。どうしたん?こんな早くから二人揃って。なんや、結婚でもするん?」
「えっ?!ちちち、違います!まさか、こんな奴とけ、結婚なんてっそんな馬鹿な話がっ!」
あからさまに動揺を見せ1人わたわたし出す華楠。
まぁ、この反応で結婚では無い事はわかった。腹を据えて決めて来たのなら、この子はこんな動揺などしない。
隣で蓮は「華楠・・・酷い・・・」などと呟いて目に涙を溜めていた。
それをじっと見つめていたら、視線に気付いたのかいつもののほほん顔に戻り。
「まぁ、結婚の話はまた改めてするとしましてー。」
「ほぅ?で?」
聞き返すと蓮はすっと部屋の中に指をさした。
部屋の中?
訳が分らず、指のさされた方向へ振り返ってみると・・・。
「おわぁ!」
「わっ」
「お前、いつからそこに居たん!」
「・・・ちょっと前かな」
俺のすぐ後ろに海月が立っていて、中から外を覗いていた。
気配に全く気付かなかった・・・さすがアサシンと言うべきか・・・。
こんなところで力を発揮しなくてもいいのに。
「蓮、俺の事指さしたけど俺がどうかしたの?」
自分で自分に指さして、海月が問う。
蓮が海月を指さした?
蓮と海月を交互に見やる。
すると、蓮は顔の前でぱんと両手を合わせ頭を下げた。
「な、なんやねん・・・?」
「瑠玖さん、そいつ今日ちょっと貸して下さい!」
「は?」
意味が分らずただ聞き返すと、蓮もただ「お願いします」と頭を下げるだけで理由を口にしようとはしない。
俺としては「貸して下さい」と言う言葉選びがちょっと気に食わなかった。
海月は俺の大切な相方だし、公言はしていないが恋人だ。
それをまるでモノかのように貸せだの・・・許せるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
と、喉元まで出かかった時だった。
「ん?俺と遊びたいの?蓮」
さらっと海月が言ってのけたのだ。
あぁ、なんだ。そう言う事か・・・。
それならそうと言ってくれれば・・・って、え?
ちょっと待て。海月?俺との狩りの話は何処へ行ったんだ?
呆けている俺をよそに、隣ではとんとんと話が進んで行ってしまい、
海月は蓮と華楠と三人で狩りへ行く事になってしまった。
「ホントに行って来ていいの?瑠玖」
出掛ける間際、最後の最後に海月が確認してくる。
本音を言ってしまえば行って欲しくはないけれど、蓮達だって朝早くから迎えに来た訳だし。
さっき、相談している海月の姿は楽しそうだったし。
ここで引きとめてしまっては女々しい気もするし。
男は黙って送り出すのだ。
「ええよ、行って来い。たまには俺以外の奴らと狩りすんのも楽しいやろ」
言って、頭をぐりぐりと撫でてやった。
柔らかい金髪が指に絡まる。
海月は嬉しそうに微笑んでから、ちょっと蓮と華楠の姿を確認して。
俺を少しだけ部屋の中に押し込んだ。
「海月?」
どうしたのかと思ったら。
そっと頭を肩口に寄せて暫く静止。
そして小さな声で呟いたのだ。
「ありがとう。大好きだよ、瑠玖」
「!」
俺達はお互いに滅多な事が無い限り、好きだの愛してるだの言わない。
言わなくてもお互い通じていると思っているからだ。・・・と、俺は勝手に思っている訳だが。
だからこれには正直面食らった。自分の心臓が跳ね、赤面するのが分った。
まぁ、それは言った本人も同様だったらしく照れ隠しに笑いながら俯き加減でライドワード帽を被り。
「じゃ、行って来るね!」
視線も合わせず走って行ってしまった。
俺としてもその方が都合が良かったのだが・・・赤くなった海月の顔、ちょっと見たかったなぁ。
遠くで「海月、なんで顔赤いの?」と華楠に尋ねられているのを聞きながらドアを閉めたのだった。
うん。
それで暇潰しに臨時広場に顔を出して失敗した、と言う訳だ。
いやぁ・・・ホントに失敗だったなぁ・・・。殴り型を受け入れてくれる所じゃないとだめだ。
ため息を一つこぼした所で、部屋の中が真っ暗なのに気が付いた。
日が完全に落ちてしまったようだ。
まだ少し重い身体をなんとか動かして立ち上がり、蝋燭に火をつける。
「水でも飲むか・・・」
海月、遅いなぁ・・・。
朧にそう思いながら、楽しんでくれていればいいと言い聞かせキッチンに向かった。
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